虚無に咲く華
「食った食った!」
裕也はソファーにもたれ、お腹をぽんぽんと叩いた。
「もう! 下品なんだから!」
「うまかったんだから、いいだろ!」
「そういう問題じゃないの!」
大河は食べ終えた皿を重ね、キッチンへ運んでいく。
女はスプーンを置いた。
皿には、まだオムライスが三分の二ほど残っている。
雅が気づいた。
「……美味しくなかった?」
女は何も答えない。
裕也が笑った。
「不味かったよな!」
「ちょっと! 裕也!」
「冗談だよ、冗談!」
雅は女へ向き直った。
「お腹いっぱいなら、無理しなくていいからね」
女は小さく頷いた。
「疲れたでしょう。少し休む?」
また、小さく頷く。
雅は立ち上がった。
「じゃあ、寝るところへ行こうか」
大河がキッチンから戻ってきた。
「裕也さん、寝室を用意してまいります」
「ああ、頼む」
大河は廊下の奥へ向かった。
しばらくして戻ってくる。
「準備できました」
雅は女を立たせ、寝室へ案内した。
広い部屋には大きなベッドが置かれ、窓の向こうには夜景が広がっている。
雅はベッドの掛け布団をめくった。
「ここで休んでね」
女はベッドを見つめた。
「大丈夫。誰も怒らないから」
しばらくして、女はゆっくりと腰を下ろした。
雅が掛け布団をかける。
「おやすみなさい」
女は雅を見つめていたが、やがて目を閉じた。
雅は照明を少し落とし、静かに部屋を出た。
⸻
リビングへ戻ると、裕也はソファーでタバコを吸っていた。
大河はテーブルの食器を片づけている。
「裕也」
「あ?」
「……あの子、どうするの?」
「どうするも何もねぇよ」
裕也はタバコの灰を落とした。
「で、どうだった?」
雅はソファーに腰を下ろした。
「……かなり酷い状態ね」
裕也の表情が少し変わった。
「そんなにか?」
「身体中、傷だらけ。新しいものも古いものもあったわ。火傷の痕も……」
雅は言葉を詰まらせた。
「それに、足の指が一本なかったの」
大河の手が止まった。
裕也は黙って雅を見ている。
「……長い間、虐待されていたんじゃないかしら」
雅は膝の上で両手を握った。
「身体の中までどうなってるか分からないし、病院で診てもらった方がいいと思う」
「……病院か」
裕也はタバコを灰皿に押しつけた。
「大河」
「はい」
「明日、診てもらえるところを手配してくれ」
「承知しました」
大河は携帯電話を取り出し、予定を確認し始めた。
裕也は雅へ向き直った。
「じゃあ、しばらく面倒頼むわ」
「……えっ?」
「頼むぞ」
「ちょっと待って! 私だって仕事あるのよ!」
「ああ」
「それに、ここで? あの子と一緒に暮らすつもり?」
「そのつもりだけど?」
雅は呆れたように裕也を見た。
「……どうしてよ」
裕也はソファーに深くもたれた。
「ここなら安全だからだよ」
「……安全?」
「まだ何も分かんねぇけどな。ここなら護衛もいる」
雅は眉をひそめた。
「何かあるの?」
「さあな。あるかないか……まだ分かんねぇよ」
裕也はソファーに寝転がり、天井を見上げた。
雅はしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。
「……分かったわ。でも、仕事の日は無理だからね」
「ああ」
「ご飯も作り置きになるわよ」
「助かるよ」
「まったく……昔からそうなんだから」
雅は呆れたように笑った。
大河が携帯電話をしまい、裕也へ向き直った。
「裕也さん、明日の件、私の方で進めておきます」
「ああ、頼む」
「それと……」
大河は寝室へ続く廊下を見た。
「今夜は私も残ります。何かあったときに対応できますので」
裕也は大河を見上げた。
「……そうか。頼むわ」
「承知しました」
雅は二人を見比べ、小さく笑った。
「……男二人で、あの子を守るつもり?」
裕也は鼻で笑った。
「三人だろ」
「……え?」
「お前も入ってんだよ」
「もう! 勝手なんだから!」
雅の声がリビングに響いた。
裕也は笑い、大河は静かに頭を下げた。
廊下の奥では、女が温かな布団に包まれ、静かに眠っていた。
裕也はソファーにもたれ、お腹をぽんぽんと叩いた。
「もう! 下品なんだから!」
「うまかったんだから、いいだろ!」
「そういう問題じゃないの!」
大河は食べ終えた皿を重ね、キッチンへ運んでいく。
女はスプーンを置いた。
皿には、まだオムライスが三分の二ほど残っている。
雅が気づいた。
「……美味しくなかった?」
女は何も答えない。
裕也が笑った。
「不味かったよな!」
「ちょっと! 裕也!」
「冗談だよ、冗談!」
雅は女へ向き直った。
「お腹いっぱいなら、無理しなくていいからね」
女は小さく頷いた。
「疲れたでしょう。少し休む?」
また、小さく頷く。
雅は立ち上がった。
「じゃあ、寝るところへ行こうか」
大河がキッチンから戻ってきた。
「裕也さん、寝室を用意してまいります」
「ああ、頼む」
大河は廊下の奥へ向かった。
しばらくして戻ってくる。
「準備できました」
雅は女を立たせ、寝室へ案内した。
広い部屋には大きなベッドが置かれ、窓の向こうには夜景が広がっている。
雅はベッドの掛け布団をめくった。
「ここで休んでね」
女はベッドを見つめた。
「大丈夫。誰も怒らないから」
しばらくして、女はゆっくりと腰を下ろした。
雅が掛け布団をかける。
「おやすみなさい」
女は雅を見つめていたが、やがて目を閉じた。
雅は照明を少し落とし、静かに部屋を出た。
⸻
リビングへ戻ると、裕也はソファーでタバコを吸っていた。
大河はテーブルの食器を片づけている。
「裕也」
「あ?」
「……あの子、どうするの?」
「どうするも何もねぇよ」
裕也はタバコの灰を落とした。
「で、どうだった?」
雅はソファーに腰を下ろした。
「……かなり酷い状態ね」
裕也の表情が少し変わった。
「そんなにか?」
「身体中、傷だらけ。新しいものも古いものもあったわ。火傷の痕も……」
雅は言葉を詰まらせた。
「それに、足の指が一本なかったの」
大河の手が止まった。
裕也は黙って雅を見ている。
「……長い間、虐待されていたんじゃないかしら」
雅は膝の上で両手を握った。
「身体の中までどうなってるか分からないし、病院で診てもらった方がいいと思う」
「……病院か」
裕也はタバコを灰皿に押しつけた。
「大河」
「はい」
「明日、診てもらえるところを手配してくれ」
「承知しました」
大河は携帯電話を取り出し、予定を確認し始めた。
裕也は雅へ向き直った。
「じゃあ、しばらく面倒頼むわ」
「……えっ?」
「頼むぞ」
「ちょっと待って! 私だって仕事あるのよ!」
「ああ」
「それに、ここで? あの子と一緒に暮らすつもり?」
「そのつもりだけど?」
雅は呆れたように裕也を見た。
「……どうしてよ」
裕也はソファーに深くもたれた。
「ここなら安全だからだよ」
「……安全?」
「まだ何も分かんねぇけどな。ここなら護衛もいる」
雅は眉をひそめた。
「何かあるの?」
「さあな。あるかないか……まだ分かんねぇよ」
裕也はソファーに寝転がり、天井を見上げた。
雅はしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。
「……分かったわ。でも、仕事の日は無理だからね」
「ああ」
「ご飯も作り置きになるわよ」
「助かるよ」
「まったく……昔からそうなんだから」
雅は呆れたように笑った。
大河が携帯電話をしまい、裕也へ向き直った。
「裕也さん、明日の件、私の方で進めておきます」
「ああ、頼む」
「それと……」
大河は寝室へ続く廊下を見た。
「今夜は私も残ります。何かあったときに対応できますので」
裕也は大河を見上げた。
「……そうか。頼むわ」
「承知しました」
雅は二人を見比べ、小さく笑った。
「……男二人で、あの子を守るつもり?」
裕也は鼻で笑った。
「三人だろ」
「……え?」
「お前も入ってんだよ」
「もう! 勝手なんだから!」
雅の声がリビングに響いた。
裕也は笑い、大河は静かに頭を下げた。
廊下の奥では、女が温かな布団に包まれ、静かに眠っていた。