虚無に咲く華


「じゃあな。元気でやれよ」

猫たちに背を向け、路地の奥へ歩き出す。

少し進むと、さらに薄暗くなった。

建物の裏口には壊れた椅子や段ボールが積まれ、壁際には古びた布団まで捨てられている。

「なんだよ、ここ。スラム街みてぇじゃねぇか」

裕也は足元の空き缶を避けながら進んだ。

そのとき、壁際に妙なものが目に入った。

大きな塊が、ゴミの間に転がっている。

「……ん?」

裕也は足を止めた。

暗くてよく見えない。

古い布のようなものに包まれ、壁にもたれるようにしている。

「最近はでけぇ人形まで捨てんのかよ」

呆れたように笑い、通り過ぎようとした。

その瞬間。

暗闇の中で、何かが光った。

「……あ?」

二つの小さな光。

裕也は目を細めた。

「猫か?」

表通りを走る車のヘッドライトが、建物の隙間から差し込んだ。

白い光が路地の左半分を一瞬照らし、壁際の塊にかかった。

髪の毛。

頬の一部。

細い腕。

そして、光が消える。

「……おいおい」

裕也はゆっくり近づいた。

次の車が通り過ぎる。

再び差し込んだ光の中に、人間の顔が浮かび上がった。

「……女?」

裕也は数歩手前で立ち止まった。

壁にもたれていたのは、痩せた女だった。
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