虚無に咲く華


長い髪は乱れ、顔の半分を覆っている。

薄汚れた服を着て、膝を抱えるように座り込んでいた。

その目だけが、裕也をじっと見上げている。

「なんだよ、お前」

裕也は腰を落とし、女の顔を覗き込んだ。

「こんなとこで何してんだ?」

返事はない。

女は瞬きするだけで、口を開こうともしなかった。

裕也はふっと笑った。

「ははっ!お前、捨て猫みてぇだな!」

大きな手を伸ばし、女の頭をガシガシと撫でる。

乱れた髪がさらにぐしゃぐしゃになった。

「なんだ?親探してんのか?」

女は裕也を見上げたまま、何も答えない。

「おいおい、無視かよ」

裕也は苦笑いした。

「腹減ってんのか?」

すると、女の顎がほんの少し下がった。

こくん。

「おっ、腹は減ってんのか」

裕也は頭を掻いた。

「どうすっかなぁ……」

こんなところに置いていくのも気が引ける。

かといって、どこの誰かも分からない女を連れて帰るのも面倒だ。

裕也はしばらく考え込んだあと、女に目を向けた。

「……しばらく、ウチに来るか?」

返事はない。

「飯ぐらい食わせてやるよ」

女は動かない。

裕也は小さく息を吐いた。

「嫌ならいいけどよ」

膝に手をついて立ち上がる。

「じゃあな」

踵を返し、歩き出そうとした。

くいっ。

「……ん?」

足元に小さな抵抗を感じた。

振り返ると、女の手が裕也のズボンの裾をつかんでいた。

細い指が、黒い生地をぎゅっと握っている。

裕也はその手を見下ろした。

それから女の顔へ視線を戻す。

「……ははっ!」

思わず笑い声が漏れた。

「お前、ほんっとに猫だな!」

女は何も言わない。

ただ、裾を離そうとしなかった。
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