大正初恋浪漫譚ー突然、陸軍少尉の婚約者になりましたが、どうやら彼は私に恋をしていたようですー
律と別れた小春は、再び葛城家へと続く道を歩き始めた。
先ほどまでの賑やかなやり取りを思い返し、思わず頬が緩む。
律とは、いつだってあんな調子だ。
遠慮なく冗談を言い合い、時には腹を立て、けれど次の瞬間には笑い合っている。
幼い頃から変わらない、気兼ねのない間柄だった。
けれど、ふとした拍子に、先ほどの会話が蘇る。
――許婚殿とは、どうなんだ?
律にそう尋ねられたとき、自分は何と答えただろう。
千紘の優しさや、真面目なところ。
まだ知らないことばかりだけれど、少しずつ知っていきたいと思っていること。
口にしてみると、思いのほかたくさんのことを考えていた自分に気づいた。
「……不思議ね」
小春は小さく呟いた。
縁談が持ち上がった頃は、まさか自分が、こんなふうに少尉のことを考えるようになるとは思ってもみなかった。
それなのに今では、葛城家へ帰る道すがら、今日はどんな話ができるだろうと、心のどこかで楽しみにしている。
そのことを認めるのは、何だか少し気恥ずかしかった。
小春はひとつ首を振ると、目の前に見えてきた葛城家の門へと足を速めた。