大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
「でも、お兄様にも言われたの。もう少し、あの方を知ってみたらどうかって」
「それで?」
「……もう少し、お話ししてみようと思うの」
口にしてみると、不思議な気持ちがした。
あんなに戸惑っていたのに、今はほんの少しだけ、少尉がどんな方なのか気になっている。
麻友子はそんな私を見つめ、やがて柔らかく微笑んだ。
「それなら、いいんじゃないかしら」
「え?」
「だって、小春。好きになれるかどうかは、まだわからないのでしょう? だったら、知ってみてから考えたっていいじゃない」
私は目を瞬かせた。
「……麻友子も、そう思う?」
「もちろん。でもね」
麻友子は少しだけ身を乗り出した。
「誰かに勧められたからじゃなくて、小春自身が知りたいと思えたことが大切なのよ」
その言葉に、私ははっとした。
ーーーそうだ。
お父様に言われたからでも、兄に頼まれたからでもない。
私が、自分で決めるのだ。
あの方を知ってみるのかどうかも。
「……ありがとう、麻友子」
そう言うと、麻友子は嬉しそうに笑った。
春風が吹き抜け、桜の花びらが私たちの足元を転がっていった。