大正初恋浪漫譚ー突然、陸軍少尉の婚約者になりましたが、どうやら彼は私に恋をしていたようですー
父の書斎に入ると、机の向こうに座る父が、いつになく真剣な面持ちで小春を迎えた。
「お父様、お呼びでしょうか」
「ああ。そこへ座りなさい」
小春は静かに腰を下ろした。
父はしばらく小春の顔を見つめていたが、やがて机上の書類を脇へ寄せた。
「実はな、お前に話しておきたいことがある」
「はい」
「先日、顔を合わせた葛城君のことだ」
小春の心臓が、どきりと跳ねた。
「……少尉、ですか?」
「ああ」
父はうなずいた。
「このたび、葛城君のご家族と、正式に縁談を進めることになった」
「縁談……?」
小春は目を瞬いた。
その言葉の意味はわかっている。
けれど、それが自分と千紘の話だとは、すぐには理解できなかった。
「それは……どういうことでしょうか」
「葛城君が、お前を妻に迎えたい気持ちに変わりないと申し出てくれたのだ」
「……えっ?」
思わず、声が漏れた。
小春は父の顔を見つめたまま、しばらく動けなかった。
妻に迎えたい。
それは、つまり。
「わ、私と少尉が……婚約を?」
「そういうことだ」