大正初恋浪漫譚ー突然、陸軍少尉の婚約者になりましたが、彼は二年前から私に恋をしていたようですー
小春は、ぽつりと呟いた。
母は意外そうに小春を見る。
「あら。笑われるかと思ったわ」
「どうしてですか?」
「だって、あの子ったら、小鳥のことが心配で、いつまでも帰ろうとしなかったのですもの」
「ふふっ。でも、私は……」
小春は、少し考えてから、顔を上げた。
「少尉らしいと思います」
「千紘らしい?」
「はい。困っているものを放っておけないところが、私と少し似ているような気がして」
そう言って、小春は微笑んだ。
「私も、困っている方を見かけると、つい放っておけなくなってしまうのです。昨日も、女中さんが危うくお茶をこぼしそうになったとき、思わず手を出してしまって……」
「まあ、そうだったの」
「佐和さんには、お稽古に集中するようにと叱られてしまいましたけれど……」
小春は、少しだけ困ったように笑った。
「でも、あのままでは危なかったものですから」
母は、しばらく小春を見つめていた。
やがて、その顔に柔らかな笑みが広がった。
「……そう。あなたも、そういう方なのね」
「お母様?」
「いいえ。何でもありませんよ」
母は嬉しそうに茶碗を置いた。
「千紘は、自分のことをあまり話さない子だから、あなたがあの子のことを少しずつ知ってくださるのは、私も嬉しいの」
その言葉に、小春の胸がじんわりと温かくなった。
千紘のことは、まだよく知らない。
けれど、知らないからこそ、知りたいと思うこともあるのかもしれない。
そう考えると、これから一緒に過ごす時間が、ほんの少し楽しみに思えた。