大正初恋浪漫譚ー突然、陸軍少尉の婚約者になりましたが、どうやら彼は私に恋をしていたようですー
そして、ほんの少しだけ迷ったあと、尋ねた。
「綾子さんは、少尉のことをよくご存じなのですね」
「長いお付き合いですもの」
綾子は静かに答えた。
「私の存じ上げている千紘さんは、昔からあまりお変わりになりませんわ」
その言葉に、小春は笑顔で頷いた。
けれど、胸の奥に、小さな疑問が残った。
自分は、少尉の何を知っているのだろう。
優しい方だと思う。
不器用だけれど、気遣いのできる方だとも思う。
けれど、それは、ほんの一部分にすぎないのではないだろうか。
自分の知らない少尉を、綾子は知っている。
そのことが、なぜだか心に引っかかった。