大正初恋浪漫譚ー陸軍少尉と婚約は突然にー
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同じ頃、綾子は自室の窓辺に座っていた。
膝の上には、読みかけの本が開かれている。
けれど、先ほどから一行も読み進められずにいた。
目を閉じると、あの日の千紘の姿が浮かんでくる。
昔と変わらぬ、静かな物腰。
必要以上に言葉を重ねないところも、相手の話を最後まで聞くところも、以前と少しも変わっていない。
…けれど。
綾子はそっと目を開けた。
小春の話を聞いていたときの千紘の表情が、どうしても忘れられなかった。
ほんのわずかな変化だった。
声が、いつもより柔らかくなる。
視線が、自然と彼女を追う。
そして、小春が笑うと、千紘の目元もかすかに和らぐ。
長い付き合いのある綾子だからこそ、その小さな違いに気づいてしまった。