(仮)映えの天才、スイーツ研究部を救います!
ひみつのアカウントがバレちゃった⁉︎
「うーん……あとちょっとだけ、右かな」

 わたし、桜井桃花(さくらいももか)は、スマホを片手に小さく首をかしげた。
 テーブルの上には、いちごがたっぷりのった期間限定パフェ。
 ふわふわのホイップに、つやつやのいちごソース。
 てっぺんには小さなハート型チョコまでのっている。
 もう、完璧なくらいかわいいっ!
 だけど、ただ撮るだけじゃもったいない。
 角度、光、配置、背景。
 ほんの少し違うだけで、写真の印象は変わる。
 パフェの向きを微調整して、背景に余計なものが映り込んでいないか確認する。
 いちごの赤がいちばんきれいに見える位置を探して、スマホを構え直した。

「よし……ここ!」

 カシャッ。
 撮れた写真を確認した瞬間、思わず頬がゆるんだ。
 いちごの赤に、ホイップの白。
 やわらかな夕方の光が全体を包んで、まるで絵本の中から飛び出してきたみたい。
 
「か、かわいい〜〜!」

 わたしは満足して、いつものSNSアプリを開いた。
 そして、今の写真をぽんっと投稿する。
 ハンドルネームは、『もかろん』。
 かわいいスイーツやカフェを見つけては、写真を撮って投稿する。
 そんな趣味のアカウントだ。
 ……のはずだったのに。
 気づけばフォロワーは、なんと一万人を超えていた。
 
「相変わらずすごいなあ……」

 自分でも、まだちょっと信じられない。
 ただ、かわいいものが好きで始めただけなのに。
 投稿を開くと、今日もたくさんのコメントが届いていた。

【今回も世界観かわいすぎます!】
【いちごの配置が天才♡】
【更新待ってました!】

「ふふっ」

 画面越しに誰かが喜んでくれる。
 それがうれしくて、わたしは毎回、写真を撮るときも投稿するときも、つい本気になってしまう。
 コメントをスクロールしていると、見覚えのあるアカウント名が目に留まった。
 
【イチ:今回の配色、かなり好きです。いちごの赤が映えてる】

「あ、この人またコメントくれてる」

 『イチ』さん。
 この人は、かなり前から投稿するたびにコメントをくれる常連さんだ。
 ただ「かわいい!」と言ってくれるだけじゃない。光の入り方や色の組み合わせ、写真の構図まで、細かいところを見てくれる。
 DMでも、ときどきこんなメッセージを送ってくれる。
【ここの構図、すごく参考になります】
 たぶん、相当なスイーツ好きなんだと思う。
 わたしはうれしくなって、返信を打ち始めた。
【ありがとうございます♡ うれしいです!】
 そのとき。

「――そのアカウント」
「え?」

 すぐ横から声がして、肩がびくっと跳ねた。
 顔を上げると、ひとりの男子が立っていた。

「く、栗原くん⁉︎」

 同じクラスの、栗原一真(くりはらかずま)くん。
 すらっと背が高くて、クールな雰囲気。
 学校でもちょっと有名な、スイーツ研究部の男子だ。
 実家は人気の洋菓子店らしく、お菓子作りがかなり上手だという噂もある。
 そんな栗原くんが、どうしてここに?

「……あっ。栗原くんも、期間限定パフェを食べに……」
「それ、今投稿した?」
「えっ」

 わたしの質問は遮られ、栗原くんの視線はわたしのスマホ画面に向いていた。
 画面には、投稿したばかりのパフェ写真。
 ……あ。まずい。

「あ、いや、その、これは……」

 今、見えちゃった?
 慌ててスマホを隠そうとしたけれど、もう遅かった。
 栗原くんは、わたしとスマホ画面を交互に見た。
 いつも落ち着いてそうなのに、珍しく動揺しているみたい。
 
「まじで?」
「な、なにが……?」
「『もかろん』って――桜井さんなの?」
「……え」

 一瞬、頭が真っ白になる。

「えええっ⁉︎」

 思わず大きな声が出た。

「な、なんでわかったの⁉︎」
「いや、画面見えたし」
「そ、そうじゃなくて!」

 わたしは首をぶんぶん横に振る。

「なんで栗原くんが『もかろん』を知ってるの⁉︎ そっちの方がびっくりなんだけど!」

 栗原くんは少しだけ気まずそうに視線をそらした。

「……見てるから」
「え?」
「てか、普通にフォローしてる」
「……は?」

 思考が止まる。
 え、待って。
 フォロー?
 あの、わたしの?
 
「コメントもしてる」
「えっ」
「『イチ』」
「…………」

 数秒、完全にフリーズした。
 そして。

「えええええええええっ⁉︎」

 店内に響き渡るくらい大きな声が出てしまって、あわてて口を押さえる。

「しーっ」

 栗原くんが小さく眉をひそめた。

「み、み、見てたの⁉︎ わたしの投稿、ずっと!」
「だからさっきからそう言ってる」
「うそでしょ……⁉︎」

 わたしは思わずスマホと栗原くんの顔を交互に見比べた。
 え、だって。
 学校ではほとんど話したことないし、むしろちょっと近寄りがたいと思っていたのに。
 そんな栗原くんが。
 あの、毎回めちゃくちゃ細かく感想をくれる『イチ』さん⁉︎

「コメントの雰囲気と全然違うんだけど!」
「どういう意味?」
「もっとこう……ふわっとした優しい人かと思ってた」
「失礼だな」

 栗原くんが少しだけむっとする。

「ていうか、わたし今まで普通にDM返してたんだけど⁉︎」

 頭の中に、これまでに自分が送ったメッセージが次々とよみがえる。

【ありがとうございます♡】
【うれしいです!】
【また見てください♪】

「うわああああ!」

 恥ずかしさで思わずテーブルに突っ伏した。

「思い出させないでぇぇ……!」
「別に普通だったけど」
「普通じゃないよ! 同じクラスの男子にハート送ってたんだよ⁉︎」
「いや、そこかよ」

 わたしが一人で大騒ぎしていると、栗原くんがとうとう少しだけ吹き出した。

「……っ」
「え?」

 今、笑った?
 学校では、もっとクールで、あんまり笑わないイメージだったのに。

「な、なんで笑うの⁉︎」
「いや」

 栗原くんは、まだ少し笑いをこらえているみたいだった。

「思ったよりおもしろいな、桜井さん」
「なにそれ⁉︎」

 ひどい!
 ……でも。
 なんだか、学校で見る栗原くんとは少し違う気がした。
 いつもは何を考えているのかわからないのに、今はちゃんと笑うし、意外と遠慮なくものを言う。
 わたしが勝手に、近寄りがたい人だと思い込んでいただけなのかもしれない。
 
「ていうか」

 栗原くんが、ふっと表情を落ち着かせた。
 
「こっちの方が驚いてる」
「え?」
「まさか『もかろん』が同じ学校、それも同級生だと思うか?」
「そ、それは……」

 わたしは、学校ではただの普通の中学二年生。
 まさか自分の投稿が一万人以上に見られているなんて、知られたくなかったわけじゃないけれど、わざわざ言うことでもないと思っていた。
 だから、こんなふうに学校の人に知られるなんて、これっぽっちも考えていなかった。

「……でもさ」

 栗原くんが、わたしのスマホに目を落とした。

「桜井さんって、やっぱりすごいんだな」
「え……?」

 思いがけない言葉に、顔を上げる。

「写真。見せ方がうまい。普通に撮っただけじゃ、こうはならないだろ」

 胸の奥が、きゅっとなった。
 いつもコメントをくれていた人。
 わたしの写真を、ちゃんと見てくれていた人。
 その人が、目の前にいる。

「……ありがとう」

 さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、声が小さくなった。
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