若き警備会社社長が愛する奥様は元怪盗だったのです

prologue 予告状とジェリービーンズ




 予告状は、ご丁寧なことにバニラの甘い香りつきで届いていた。

『今夜零時、鷲尾邸のブルームーン・ダイヤをいただきに参ります。 怪盗ジェリー・ムーン』

「ジェリー・ムーン? ……ふざけた名前だな」

 大森護は、予告状を指で弾いた。立ち上げたばかりの警備会社、セキュリティフォレストにとって、これが初めての大仕事になる。
 依頼人は資産家で宝石コレクターの鷲尾仁一。世間を騒がせる女怪盗から邸の宝飾品を守り切れば、会社の名前は一気に売れるだろう。
 負ける気はしなかった。ここ三日、護は邸の図面を頭に叩き込み、床下から屋根裏まで歩いて確かめているのだ。使用人しか知らない古い隠し通路まですべて……。

「侵入経路は三つ。正面玄関、西の窓、屋根裏。すべて固めました」
「怪盗が選ぶなら、屋根裏だろう。俺がそこで待つ」

 部下の報告に、護は満足げに頷いた。濃紺の制服を着た屈強の男たちは護の言葉に従い、それぞれの警備場所へと散っていく。
 零時きっかり、護は屋根裏の暗がりで息をひそめていた。物音ひとつしない。
 完璧な布陣だ。

 ――遅いな。

 そのとき、階下から部下の声が聞こえた。
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