若き警備会社社長が愛する奥様は元怪盗だったのです
「社長ー、差し入れでーす」
差し入れ? 護が眉をひそめて下りていくと、制服姿の見慣れない警備員が、湯気の立つコーヒーを盆に載せて立っていた。
「お疲れさまです、社長。夜は長いですから」
帽子の下で、いたずらっぽく笑う唇。護はコーヒーを受け取りかけて固まった。
部下は全員、護が自分で選んだ顔ぶれだ。こんな顔の男は、いない。
「お前――」
制服の「男」は、帽子を取った。長い髪がふわりと落ちる。
「正面から来るなんて、思わなかった?」
月明かりの中で笑う彼女は、思っていたよりずっと若くて、どこか楽しそうだった。
護が手を伸ばすより早く、彼女は金庫室の扉を開け、中身をひとつ抜き取っていた。
ブルームーン・ダイヤ――の台座を。
「待て!」
「待てと言われて待つ怪盗はいませ~ん!」
「ふざけるな!」
護は駆けた。廊下を、階段を、庭を。彼女の足取りは蝶のように軽やかで、まるで護の足音を聞いて走る速さを決めているかのようだった。
塀の上に立った彼女が、勝ち誇った表情で振り返る。
「残念でしたね」
「次は必ず捕まえてやる」
息を切らして叫んだ護に、彼女は笑った。