若き警備会社社長が愛する奥様は元怪盗だったのです
護は、壁の書棚から一冊の図面ファイルを引き抜いた。学生時代に起業し、若き警備会社社長として臨んだ夜、三日かけて頭に叩き込んだ、鷲尾邸の見取り図だ。
広げながら、護は思う。
犯人は、十中八九鷲尾の息子だろう。だが、当時の彼は中学生。父の仕事にも、邸の古い構造にも、関わってこなかったはずだ。
使用人しか知らない隠し通路――あの道があることを、今この世で知っているのは、護だけ。
「瑠那」
「うん」
「あの邸のことなら、俺が一番知っている」
顔を上げた彼女の瞳に、強い光が戻っていた。怪盗ジェリー・ムーンの目だ。
「侵入経路は三つ。君なら、どれを選ぶ?」
「……こっち!」
瑠那は、一瞬だけ笑って、図面に指を置いた。
彼女は必ず帰ってくる。
護は、そう信じている。


