若き警備会社社長が愛する奥様は元怪盗だったのです
だから、止めるつもりはなかった。
止めて、彼女が納得するなら、あの日に捕まえられていたはずだ。
「警察には、まだ知らせない」
護がそう言うと、瑠那が驚いたように顔を上げた。
「でも、全部を一人で抱えるつもりもない」
「護さん……」
「鷲尾の密輸事件を担当した人がいる。神田さんといって、定年で退職した人だ。今は警察の人間じゃないが、当時の事情には詳しい。口の堅い人だ。彼にだけは事情を話す」
それが護にできる最大限の配慮だった。
妻を止めない代わりに、妻が帰る道を、できるだけ広く整えておく。
デスクの引き出しを開けると、中には、ジェリービーンズの小袋が入っている。最初の夜の一粒は、とうに別の袋に移してある。袋を開けた護は、そのうちのひとつを、瑠那の手のひらに載せた。
「お守りだ」
瑠那は、目を丸くした。
「……取っておいたの、本当だったんですね」
「捨てられるか」
小さく笑った彼女の顔が、少しだけ、いつもの瑠那に戻った。