呉服王子のギャップがメロすぎです!~料理上手な御曹司に胃袋ごと捕まりました~
 今更ながら『やっぱり無理です』と弁当を突き返すわけにはいかない。それはかなり失礼な気がする。これはもうお弁当に一点集中するしか道はない。

『い……いただきます』

 ゴクンとつばをのみ込み、お弁当に添えてあった割り箸を手に取った。
 じっと見つめられ、額に変な汗がにじむ。

 なんでこんなイケメンの前で食事をすることに……。

 よくよく考えれば、男性とふたりで食事をするのも初めてなのだ。緊張でおかずをこぼしてしまわないようありったけの集中力をかき集め、卵焼きを掴んだ。視線は感じているがそちらを見たら絶対に落とす自信がある。注意深く卵焼きを口に入れた。

『んっ!』

 噛んだ瞬間、卵焼きからジュワッと出汁(だし)が染み出し、思わず声が出た。たっぷりと含まれた出汁が卵の旨味を引き立てている。甘みがありつつも、お弁当のおかずに最適な塩加減だ。さっきまでの緊張も忘れて味わう。

『すごくおいしい! この卵焼き、今まで食べた中で間違いなく一番おいしいです!』
『本当?』
『はい!』

 これでもかと大きくうなずくと、男性はふわりとうれしそうに微笑んだ。満開の桜に負けないほどきれいな微笑みに、心臓がドキンと大きく跳ねる。

 せわしなくなる心臓をごまかすように、ほかのおかずにも手を伸ばした。

 そうして二段の弁当箱が空になるまで、私はその男性とふたりでお花見を楽しんだ。
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