生徒ひとりの島に、ふたりめが来た
船が着くまでに、歓迎の言葉を三つ考えた。
「潮守島へようこそ」は観光案内みたいだし、「よろしく」は短すぎる。「やっと来たな」は、ずっと待ち構えていたのがばれる。
結局、どれも決まらないまま、港の先に白い船影が見えた。
四月の海は、日が差しているのに風が冷たい。防波堤の内側に浮いた発泡スチロールのかけらが、同じところを行ったり来たりしている。船が近づくと、係留用のロープを持った人たちが岸壁へ出てきた。おれも邪魔にならない場所まで下がる。
小学校二年のとき、同じ学年の最後の一人が島を出た。それからずっと、教科書に「隣の人と相談して」と書かれていても、おれの隣は空いていた。小学部には五人いるし、休み時間にみのりたちと遊ぶこともある。でも、同じ問題を解いたり、同じテストを受けたりする相手はいなかった。
今度来る子は、一年間の離島留学だという。しかも、おれと同じ中学三年生。春日先生に聞いた日から、机をもう一つ並べた教室のことばかり考えていた。
船の扉が開いた。
買い物袋を持ったおばさんの次に、大きな鞄を引く女の子が現れた。手すりをつかんだまま、しばらく足を出さない。黒い髪が風に飛ばされても、直す余裕がなさそうだった。
「篠宮澪さん?」
顔を上げた子は、おれを見て小さくうなずいた。足元の陸地を確かめるみたいに、一歩ずつ降りてくる。
「おれ、浜崎航。学校の……」
「歓迎は、船が揺れなくなってからにして」
澪は岸壁の上で目を閉じた。
「もう着いとるよ」
「分かってる。まだ揺れてるの、こっちは」
おれは口を閉じた。船酔いする人がいるのは知っていたが、船から降りても続くとは思わなかった。
港の待合所に、風の当たらない長椅子がある。
「荷物、ここに置こう。あっち、座れるけん」
澪は鞄の取っ手を離す前に、おれの顔を見た。
「……ありがとう。ちょっとだけ」
長椅子まで歩く間、澪は海のほうを見なかった。おれは考えてきた歓迎の言葉を、全部飲み込んだ。
受け入れ先の家は、港から学校へ向かう坂の途中にあった。澪が落ち着くまで待ってから、家の人が取りに来た荷物を一緒に運んだ。玄関で靴を脱いだ澪は、揺れていない床を一度見下ろし、ようやく普通に息を吐いた。
お茶を出してもらうと、澪は湯飲みを両手で包んだ。
「島には、慣れた?」
聞いてから、まだ来て一時間もたっていないと気づく。
「今のところ、床には」
澪は湯飲みを置いた。
「案内してくれるんだよね。学校、見たい」
さっきまでの顔色を思うと、もう少し休んだほうがよさそうだった。でも、立ち上がるのは澪のほうが早かった。
家を出ると、坂の上から校舎の屋根が見えた。通学路の曲がり角では、海から上がってくる風が急に強くなる。おれは風を避けて道の内側へ寄ったが、澪はそこで立ち止まった。
「港があっちで、学校はこっち?」
「うん。島の北に港、学校は東のほう」
澪は小さな手帳を取り出し、何かを書いた。ページの角に細いひもが結んであり、小さなお守りがぶら下がっている。色は日に焼けて、もとの模様がよく分からない。
「道、覚えるの早かね」
「まだ覚えてないから書いてるの」
そう言って、手帳を閉じた。
校門へ続く坂では、小学部の子たちがちょうど外へ出てきた。先頭のみのりが、おれを見つけるなり走ってくる。
「航兄ちゃん、来た?」
「来とるよ。こちら、篠宮澪さん」
「小学四年の、みのりです!」
みのりは勢いよく頭を下げ、澪の顔をのぞいた。
「船、こわかった?」
「怖いというより、苦手だった」
「わたしも。一回、本土に行ったとき――」
みのりの話は長い。澪の足がまた止まったので、おれは「先生が待っとる」と声をかけた。小学部の五人は、澪に次々あいさつしてから運動場へ駆けていった。
中学部の教室には、机が二つ並んでいた。
昨日まで、窓際に一つだけだった机だ。春日先生は、もう一つを隣に寄せて、間に人ひとり分のすき間を空けていた。
「篠宮さん、一年間、よろしくお願いします。授業や生活で困ったことがあったら、遠慮せず言ってください」
「よろしくお願いします」
澪は背筋を伸ばして頭を下げた。さっき港でふらついていたのが嘘みたいだ。
「浜崎も。島のことを教えるのはいいけど、篠宮さんに自分で覚える時間をあげてね」
「分かっとるよ」
返事が早すぎたのか、春日先生は笑った。
午後は教科書を開いて、国語の音読をした。これまでは、おれが最初から最後まで読んで、先生が途中で止める。今日は一段落ずつ交代することになった。
おれは自分の段落を読み終えても、そのまま次の行を声に出してしまった。
「浜崎、そこからは篠宮さん」
「あ、はい」
澪は顔を上げず、続きを読み始めた。声は大きくないけど、言葉の切れ目がはっきりしている。おれが次の番を待っているうちに、澪は一か所だけ読み直した。
「そこ、読みづらい?」
休み時間に聞くと、澪は教科書の同じ行を指した。
「句読点の場所で切ると、意味が変になる気がして」
「おれも、そこ引っかかった」
先生に聞けば済むことなのに、二人で何度も読み比べてしまった。廊下から下級生の声が聞こえ、時計を見ると休み時間はあと少ししかない。
算数の教科書を抱えて通りかかったみのりが、開いた教室の戸からこちらを見た。
「航兄ちゃん、今日はしゃべりすぎじゃない?」
「国語やけん、しゃべってよかと」
澪が小さく吹き出した。
授業が終わっても、おれはすぐ鞄を持たなかった。机の上の消しゴムのかすを集めていると、澪が椅子を引いた。
「明日は、全部読まないでね」
「今日は途中で止まったやろ」
「先生が止めたからでしょ」
澪は自分の教科書を鞄にしまった。否定できずにいるおれを残して、廊下へ出る。
帰りも、坂の途中までは一緒だった。坂を下りれば澪の家、おれはその先へ行く。
「道、分かる?」
「手帳に書いたから。たぶん」
曲がり角まで来ると、向こうから宮守源治さんが歩いてきた。神社の世話をしている人で、おれが小さいころから、道で会うと必ず声をかけてくれる。
「おお、転校してきた子か。船は大丈夫じゃったか」
「少し酔いました。でも、もう平気です」
「そりゃよかった」
澪が家の方向を確かめようと手帳を開いたとき、お守りのひもがページの外へ垂れた。源治さんの目が、そこへ動いた。
「そのお守りは、誰のものかね」
澪は手帳を持ち直した。
「家から持ってきたものです」
「そうか」
源治さんは道を空け、「迷ったら浜崎に聞けばええ」と言って歩いていった。澪はお守りを手帳の間に挟み、坂を下りていく。
「明日ね」
「ああ。また明日」
自分の口から出たその言葉を、おれは坂の途中でもう一度、声に出さずに言ってみた。
夕食のとき、父ちゃんが魚の骨を皿の端によけながら言った。
「さっき、灯台が一回多く光ったように見えたぞ」
おれは箸を止めた。
「一回多く?」
「いつもの光のあとに、もう一つ光った。見間違いかと思ったけどな」
父ちゃんは夕方、南の沖にいたという。港へ戻ってから別の漁師に尋ねたところ、その人には普段どおりに見えたらしい。
「同じ灯台ば見とったんやろ?」
「そりゃそうたい。見る場所は違うが」
潮守島の灯台は、島の西側の海を通る船の目印だ。おれも夜の港から何度も見たことがある。光り方がおかしいなら、ほかの船だって気づきそうなものだ。
「灯台が壊れたんじゃなかと?」
「分からん。気になったけん、ほかにも聞いてみる」
父ちゃんは茶碗を持ち、そこで話を終えた。
食後、おれは縁側へ出た。家からは灯台の光は見えない。家並みと斜面の向こうで、波の音だけが聞こえていた。
昼間、教室で澪が何度も同じ一行を読んだことを思い出した。どこで区切って読むかで、意味が違って聞こえると言っていた。
明日まで黙っていられず、学校で交換した連絡先へ短いメッセージを送った。
『父ちゃんが、灯台の光が一回多かったって。ほかの漁師にはいつも通りに見えたらしい』
返事はなかなか来なかった。もう休んでいるのかもしれない。初日から船に酔って、慣れない家に泊まるのだから、疲れているはずだ。
洗い終えたコップを台所へ運び、戻ってくると、画面に文字が増えていた。
『二人はどこから見てたの?』
おれは父ちゃんに聞き直しに行った。南の沖と言っても広い。父ちゃんが教えてくれた漁場の呼び名と、もう一人がいた港側の場所を、澪に送る。
『同じ時間?』
『だいたい。でも時計で確かめたわけじゃなか』
『じゃあ、光った回数が違ったのか、見え方が違ったのか、まだ分からないね』
おれは庭先まで出て、西の暗い空を見た。光そのものが見えなくても、父ちゃんがいた場所なら分かる。島の南側から沖へ出た船と、港へ戻ってきた船。同じ灯台でも、間にある岬の見え方は違う。
『場所ならもっと詳しく分かる。漁場の名前だけじゃ分かりにくかろ』
送ったあと、しばらく画面を見つめた。
次の返事が届いた。
『航、海図を貸してくれない?』
父ちゃんの棚には、仕事で使う海図がある。借りられるか聞く前に、おれは机の端に置いていた明日の時間割を開いた。
『聞いてみる。持っていけたら明日』
返事を送ってから、国語の教科書も鞄に入れた。
「潮守島へようこそ」は観光案内みたいだし、「よろしく」は短すぎる。「やっと来たな」は、ずっと待ち構えていたのがばれる。
結局、どれも決まらないまま、港の先に白い船影が見えた。
四月の海は、日が差しているのに風が冷たい。防波堤の内側に浮いた発泡スチロールのかけらが、同じところを行ったり来たりしている。船が近づくと、係留用のロープを持った人たちが岸壁へ出てきた。おれも邪魔にならない場所まで下がる。
小学校二年のとき、同じ学年の最後の一人が島を出た。それからずっと、教科書に「隣の人と相談して」と書かれていても、おれの隣は空いていた。小学部には五人いるし、休み時間にみのりたちと遊ぶこともある。でも、同じ問題を解いたり、同じテストを受けたりする相手はいなかった。
今度来る子は、一年間の離島留学だという。しかも、おれと同じ中学三年生。春日先生に聞いた日から、机をもう一つ並べた教室のことばかり考えていた。
船の扉が開いた。
買い物袋を持ったおばさんの次に、大きな鞄を引く女の子が現れた。手すりをつかんだまま、しばらく足を出さない。黒い髪が風に飛ばされても、直す余裕がなさそうだった。
「篠宮澪さん?」
顔を上げた子は、おれを見て小さくうなずいた。足元の陸地を確かめるみたいに、一歩ずつ降りてくる。
「おれ、浜崎航。学校の……」
「歓迎は、船が揺れなくなってからにして」
澪は岸壁の上で目を閉じた。
「もう着いとるよ」
「分かってる。まだ揺れてるの、こっちは」
おれは口を閉じた。船酔いする人がいるのは知っていたが、船から降りても続くとは思わなかった。
港の待合所に、風の当たらない長椅子がある。
「荷物、ここに置こう。あっち、座れるけん」
澪は鞄の取っ手を離す前に、おれの顔を見た。
「……ありがとう。ちょっとだけ」
長椅子まで歩く間、澪は海のほうを見なかった。おれは考えてきた歓迎の言葉を、全部飲み込んだ。
受け入れ先の家は、港から学校へ向かう坂の途中にあった。澪が落ち着くまで待ってから、家の人が取りに来た荷物を一緒に運んだ。玄関で靴を脱いだ澪は、揺れていない床を一度見下ろし、ようやく普通に息を吐いた。
お茶を出してもらうと、澪は湯飲みを両手で包んだ。
「島には、慣れた?」
聞いてから、まだ来て一時間もたっていないと気づく。
「今のところ、床には」
澪は湯飲みを置いた。
「案内してくれるんだよね。学校、見たい」
さっきまでの顔色を思うと、もう少し休んだほうがよさそうだった。でも、立ち上がるのは澪のほうが早かった。
家を出ると、坂の上から校舎の屋根が見えた。通学路の曲がり角では、海から上がってくる風が急に強くなる。おれは風を避けて道の内側へ寄ったが、澪はそこで立ち止まった。
「港があっちで、学校はこっち?」
「うん。島の北に港、学校は東のほう」
澪は小さな手帳を取り出し、何かを書いた。ページの角に細いひもが結んであり、小さなお守りがぶら下がっている。色は日に焼けて、もとの模様がよく分からない。
「道、覚えるの早かね」
「まだ覚えてないから書いてるの」
そう言って、手帳を閉じた。
校門へ続く坂では、小学部の子たちがちょうど外へ出てきた。先頭のみのりが、おれを見つけるなり走ってくる。
「航兄ちゃん、来た?」
「来とるよ。こちら、篠宮澪さん」
「小学四年の、みのりです!」
みのりは勢いよく頭を下げ、澪の顔をのぞいた。
「船、こわかった?」
「怖いというより、苦手だった」
「わたしも。一回、本土に行ったとき――」
みのりの話は長い。澪の足がまた止まったので、おれは「先生が待っとる」と声をかけた。小学部の五人は、澪に次々あいさつしてから運動場へ駆けていった。
中学部の教室には、机が二つ並んでいた。
昨日まで、窓際に一つだけだった机だ。春日先生は、もう一つを隣に寄せて、間に人ひとり分のすき間を空けていた。
「篠宮さん、一年間、よろしくお願いします。授業や生活で困ったことがあったら、遠慮せず言ってください」
「よろしくお願いします」
澪は背筋を伸ばして頭を下げた。さっき港でふらついていたのが嘘みたいだ。
「浜崎も。島のことを教えるのはいいけど、篠宮さんに自分で覚える時間をあげてね」
「分かっとるよ」
返事が早すぎたのか、春日先生は笑った。
午後は教科書を開いて、国語の音読をした。これまでは、おれが最初から最後まで読んで、先生が途中で止める。今日は一段落ずつ交代することになった。
おれは自分の段落を読み終えても、そのまま次の行を声に出してしまった。
「浜崎、そこからは篠宮さん」
「あ、はい」
澪は顔を上げず、続きを読み始めた。声は大きくないけど、言葉の切れ目がはっきりしている。おれが次の番を待っているうちに、澪は一か所だけ読み直した。
「そこ、読みづらい?」
休み時間に聞くと、澪は教科書の同じ行を指した。
「句読点の場所で切ると、意味が変になる気がして」
「おれも、そこ引っかかった」
先生に聞けば済むことなのに、二人で何度も読み比べてしまった。廊下から下級生の声が聞こえ、時計を見ると休み時間はあと少ししかない。
算数の教科書を抱えて通りかかったみのりが、開いた教室の戸からこちらを見た。
「航兄ちゃん、今日はしゃべりすぎじゃない?」
「国語やけん、しゃべってよかと」
澪が小さく吹き出した。
授業が終わっても、おれはすぐ鞄を持たなかった。机の上の消しゴムのかすを集めていると、澪が椅子を引いた。
「明日は、全部読まないでね」
「今日は途中で止まったやろ」
「先生が止めたからでしょ」
澪は自分の教科書を鞄にしまった。否定できずにいるおれを残して、廊下へ出る。
帰りも、坂の途中までは一緒だった。坂を下りれば澪の家、おれはその先へ行く。
「道、分かる?」
「手帳に書いたから。たぶん」
曲がり角まで来ると、向こうから宮守源治さんが歩いてきた。神社の世話をしている人で、おれが小さいころから、道で会うと必ず声をかけてくれる。
「おお、転校してきた子か。船は大丈夫じゃったか」
「少し酔いました。でも、もう平気です」
「そりゃよかった」
澪が家の方向を確かめようと手帳を開いたとき、お守りのひもがページの外へ垂れた。源治さんの目が、そこへ動いた。
「そのお守りは、誰のものかね」
澪は手帳を持ち直した。
「家から持ってきたものです」
「そうか」
源治さんは道を空け、「迷ったら浜崎に聞けばええ」と言って歩いていった。澪はお守りを手帳の間に挟み、坂を下りていく。
「明日ね」
「ああ。また明日」
自分の口から出たその言葉を、おれは坂の途中でもう一度、声に出さずに言ってみた。
夕食のとき、父ちゃんが魚の骨を皿の端によけながら言った。
「さっき、灯台が一回多く光ったように見えたぞ」
おれは箸を止めた。
「一回多く?」
「いつもの光のあとに、もう一つ光った。見間違いかと思ったけどな」
父ちゃんは夕方、南の沖にいたという。港へ戻ってから別の漁師に尋ねたところ、その人には普段どおりに見えたらしい。
「同じ灯台ば見とったんやろ?」
「そりゃそうたい。見る場所は違うが」
潮守島の灯台は、島の西側の海を通る船の目印だ。おれも夜の港から何度も見たことがある。光り方がおかしいなら、ほかの船だって気づきそうなものだ。
「灯台が壊れたんじゃなかと?」
「分からん。気になったけん、ほかにも聞いてみる」
父ちゃんは茶碗を持ち、そこで話を終えた。
食後、おれは縁側へ出た。家からは灯台の光は見えない。家並みと斜面の向こうで、波の音だけが聞こえていた。
昼間、教室で澪が何度も同じ一行を読んだことを思い出した。どこで区切って読むかで、意味が違って聞こえると言っていた。
明日まで黙っていられず、学校で交換した連絡先へ短いメッセージを送った。
『父ちゃんが、灯台の光が一回多かったって。ほかの漁師にはいつも通りに見えたらしい』
返事はなかなか来なかった。もう休んでいるのかもしれない。初日から船に酔って、慣れない家に泊まるのだから、疲れているはずだ。
洗い終えたコップを台所へ運び、戻ってくると、画面に文字が増えていた。
『二人はどこから見てたの?』
おれは父ちゃんに聞き直しに行った。南の沖と言っても広い。父ちゃんが教えてくれた漁場の呼び名と、もう一人がいた港側の場所を、澪に送る。
『同じ時間?』
『だいたい。でも時計で確かめたわけじゃなか』
『じゃあ、光った回数が違ったのか、見え方が違ったのか、まだ分からないね』
おれは庭先まで出て、西の暗い空を見た。光そのものが見えなくても、父ちゃんがいた場所なら分かる。島の南側から沖へ出た船と、港へ戻ってきた船。同じ灯台でも、間にある岬の見え方は違う。
『場所ならもっと詳しく分かる。漁場の名前だけじゃ分かりにくかろ』
送ったあと、しばらく画面を見つめた。
次の返事が届いた。
『航、海図を貸してくれない?』
父ちゃんの棚には、仕事で使う海図がある。借りられるか聞く前に、おれは机の端に置いていた明日の時間割を開いた。
『聞いてみる。持っていけたら明日』
返事を送ってから、国語の教科書も鞄に入れた。
