未来に続く物語
 上映時間の十分前になると、少しずつ客が来て、次第に数は増して行った。それでも人数は多いとは言えず、人気映画も落ち着いてきたように感じた。

 私は館内の時計を確認してから、携帯を取り出してアラームを掛け、制服のベストに付いたポケットに仕舞った。そこから鞄の上に置いた本を手にし、椅子に腰を下ろして本を開いた。

 小説は長編ミステリーで、タイトルや冒頭に惹かれて購入したけれど、二ページ目に入る頃には買って良かったと思い始めていた。

 そのまま読み進めていると、誰かが横切って行き、自販機に向かっている気配があった。日常化されたことだから、特に気にすることもないけれど、一応は意識の片隅に置きながら本を読み進めていた。

 五ページ目でプラスチック製の栞が目に入り、その栞を裏表紙に挟んだ時だった。

 ふと視線を向けると、受付の小さなカウンターに缶コーヒーが置かれていて、その向こうには黒いシャツが見えた。あの男性だと思った。

 でも、口を開くでもなく、触れることすらせず、四ページ目の後半から読み直した。

 すると、微かに煙草の匂いがしてきて、こちらに話し掛けてきそうな気配があった。

 確実に昨日の件でしかないけれど、何を言われても答えようがない。

 しばらく本を読み進めていると、煙草を灰皿に擦りつけるような音が聞こえ、男性はふと息を吐いてから、歩き出した。

 それを目の端で捉えながら、受付の近くまで来たところを見計らい、声を掛けた。

「これ、飲めません」

 そこで、男性の足がすぐ止まり、一呼吸置いてから、缶コーヒーを持ち去り、そのまま関係者出入口の中に入って行った。
 
 再び本に視線を移そうとすると、小さなカウンターの上に、水滴の跡が丸く残っているのが見えた。

鞄からポケットティッシュを取り出し、カウンターに一枚置いたところで、また誰かが駆け上がって来る音が聞こえてきた。

軽やかな足取りが目の前で止まると、カウンターにカフェカップが置かれ、すぐに話し掛けられた。

「おはよ、志央さん。臨時職員の古河さん見ました?」

 緩やかな口調で尋ねて来たのは年下の男性で、ここに来てから半年目になる羽山圭人だった。
 羽山の言葉に首を傾げてみたものの、思い当たる節もなくて、カフェカップを手に取った。

 その時、羽山が制服のベストに着いたポケットから煙草を手にしていた。

「もしかして……」と口にすると、羽山が「やっぱ見てますよね……」と溜息混じりに言った。
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