三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
店を出ると、夜の空気が少し冷たかった。

「食べたねえ」
「うん。おいしかった」

蓮くんは満足そうに息を吐いて、私を見る。

「ごちそうさまでした」
「どういたしまして。焼いてくれてありがとう」
「焼くの好きだから」

駅へ向かって歩きながら、私は袖口に鼻を近づけた。

「ちょっと焼肉の匂いする」
「俺もする」

隣で彼が、自分の肩口を嗅いだ。目が合って、二人で笑う。これだけ食べたのだから、仕方がない。

「映画の話もできてよかった」
「俺も。周り、まだ誰も見てなくて」
「先に見ておいてよかった」

一人で見たときには気づかなかったことも、いくつか聞けた。映画一本で、二度楽しめた気分だ。駅の入口で、行く方向が分かれた。

「じゃあ、またね」
「うん。気をつけて」

改札を通ってから振り返ると、蓮くんはまだ向こうにいた。こちらに気づいて、片手を上げる。私も小さく手を振り、ホームへ向かった。
< 21 / 64 >

この作品をシェア

pagetop