三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
金曜日、会社を出るのが少し遅くなった。

蓮くんからは、もう着いたと連絡が来ている。ゆっくりでいいよ、と書いてあったけれど、待っていると思うと足が速くなった。

柱のそばに、スーツ姿の彼がいた。

ジャケット姿は知っている。それでも、白いシャツにネクタイを締めていると、また違った。

「お疲れ」
「ごめん、待たせちゃって」
「大丈夫。俺もさっき終わったから」

近づいた私の顔を見て、蓮くんが笑う。

「走った?」
「ちょっと」
「ゆっくりでいいって言ったのに」

息を落ち着けながら、襟元へ目を向けた。

「……スーツ、似合うね」
「ありがとう」

今日は素直に受け取るらしい。

駅の近くの定食屋へ入り、私は焼き魚、彼は生姜焼きを頼んだ。メニューを返すと、蓮くんがネクタイを少し緩める。

その手元を見ていたら、目が合った。

「何?」
「ううん。説明会、どうだった?」

聞きたかったことではある。

「面白かった。机とか椅子だけじゃなくて、働く場所全体を考える仕事もあるんだって」
「会社の引っ越しとか?」
「そう。人数とか、どういう働き方するかとか聞いて。専門の人と一緒に考えるらしい」

説明会でもらったという冊子を、少し見せてもらった。明るいオフィスの写真に、何種類もの机や椅子が載っている。

「こんなオフィス、いいね。うちの会社も椅子くらい替えてほしい」
「今の、座りにくいの?」
「長く座ってると、ちょっとね」

蓮くんは冊子の椅子のページへ目を戻した。

「そういうのも、聞いてみたいんだよね。実際使ってる人が、何に困ってるかとか」

料理が来ると、彼はさっそく生姜焼きをご飯にのせた。

「今日は、このあとバイト?」
「ううん。次は明日の夜」
「そっか。最近、少し増やしたって言ってたから」

蓮くんは箸を止め、私を見た。

「今日、眠そうだった?」

眠そうではない。むしろ、ネクタイを緩めてご飯を食べているところが、非常によかった。

「……そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、大丈夫」

少し笑われたので、私も魚へ箸を戻した。

「明日の昼間は?」
「何もないよ。真帆さんは?」
「私も」

答えると、蓮くんの口元が緩んだ。

「じゃあ、急いで帰らなくてもいいね」

そう言われると、今食べている夕飯まで、少しゆっくり味わいたくなった。

「真帆さんは? 今日、忙しかった?」
「うん。何度か修正を頼まれて、ずっと同じものを直してた」

今日の顛末を話すと、蓮くんは生姜焼きを食べながら聞いてくれた。

「それで、最後は最初の案に戻ったの」
「それ、戻るんだ」
「今日一日、何してたんだろうと思ったよ」

蓮くんが笑った。
それでも今の担当は好きだと話すと、彼は、部署を変わりたいと思うことはないのかと聞いた。

「今はないかな。まだやってみたいこともあるし」
「そっか」

蓮くんは残ったご飯を集め、生姜焼きの最後の一切れと一緒に食べた。
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