三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
待ち合わせ場所で私を見つけ、手を上げたのは、スーツ姿の青年だった。
髪の色が落ち着いている。前髪もすっきりしていて、一瞬、見違えた。

「おねーさん、久しぶり」
「久しぶり。……ちゃんと社会人してるんだね」
「ちゃんとって何。してるよ」

笑った顔は、知っている顔だった。

「ごめん。ちょっと感動しちゃって」
「そんなに?」

ネクタイを少し直しながら、彼も笑う。

駅前を歩き出すと、仕事帰りの人たちに自然に混じった。初めて声をかけられたときには、この子のスーツ姿を想像したこともなかった。

「お腹すいてる?」
「すごい。昼、食べるの遅かったのに、もうすいた」
「頼もしいね」
「おねーさんは? 何食べたい?」

相談して、最初に一緒に入ったイタリアンへ行くことにした。


「最近、どう?」

注文を済ませると、彼が尋ねた。

「元気だよ。仕事も、相変わらず」
「ご飯のほうは?」

その聞き方に、笑ってしまった。

「もう、誰かを探したりはしてないよ」
「そうなんだ。前に言ってた、よく会う子は?」

私は左手へ目を落とした。

「あのね。その人と、結婚することになったの」

彼の視線も手元へ動く。指輪を見てから私へ顔を戻し、少し身を乗り出した。

「え、ほんとに?」
「うん」
「本気になったんじゃん」

笑っている彼に、私も笑った。

「そうだったみたい」
「みたいって」
「あのときは、まだ自分でもわからなかったんだもの」

彼は椅子に座り直し、もう一度指輪を見た。

「そっか。おめでとう」
「ありがとう。それも、あなたに言いたくて」

ちょうど飲み物が来た。彼は店員さんにお礼を言ってから、私を見る。

「俺?」
「SNSを教えてくれなかったら、知り合ってなかったから。それに、あのとき聞かれなかったら、気づくのも、もう少し遅かったかもしれない」

私はグラスを手に取った。

「だから、今日はお礼。好きなもの食べてね」

彼は少し照れたように笑い、自分もグラスを持った。

「じゃあ、遠慮なく」
「うん。どうぞ」

軽くグラスを上げる。

「おめでとう、おねーさん」

初めて会った日にも、こうして向かいに座っていた。
あの日は、何が起きるかわからないものだなと思っただけだったのに。
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