今宵、黒蝶を溶かして。

○第一話 月明かりの再会

「……もう、帰ってこなくていいから」

母親の声は、驚くほど冷たかった。

玄関先に置かれた小さな旅行鞄。
その中に入っているのは、着替えと財布と、数枚の写真だけ。

三日月光莉は、震える指で一枚の写真を握りしめた。

幼い頃の自分と、隣に立つ男の子。
泣き虫だった光莉の手を、いつも握ってくれていた男の子。

――とうまくん。

けれど、その写真以外に、彼のことを覚えているものは何もなかった。

「……私、どこに行けばいいの?」

返事はなかった。

閉じた扉を見つめながら、光莉はゆっくり歩き出した。
夜の街は冷たく、行き交う人々は誰も光莉を見ていない。
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