今宵、黒蝶を溶かして。
誰にも必要とされていない。

そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

光莉は人のいない場所で足を止め、俯いた。

「もう……疲れたよ」

その声は、夜の静けさに溶けていく。

どうすればいいのか分からない。
誰に助けを求めればいいのかも分からない。

ただ、これ以上ひとりでいることが怖かった。

そのとき――

「そこから、動くな」

低く、凍るような声が響いた。

光莉が振り返ると、少し離れた場所にひとりの青年が立っていた。

黒い髪。
鋭い瞳。
夜の闇さえ従わせるような、圧倒的な存在感。

背後には、黒い蝶のマークを掲げたバイクが停まっている。

暴走族《黒蝶》の総長――御影冬真。

「……あなたには、関係ない」

光莉がそう言うと、冬真の瞳がわずかに揺れた。

「関係ある」

「どうして……?」

「お前が、今にも消えそうな顔をしてるからだ」

冬真はそれ以上、近づかなかった。
逃げ道を奪わないように、ただ一定の距離を保っている。

その優しさが、かえって苦しかった。

「私なんて、誰にも必要とされてないの」

「そんなことはない」

「じゃあ、あなたは私を知ってるの?」

問いかけた瞬間、冬真の表情が変わった。

冷たい瞳の奥に、ほんの一瞬だけ――懐かしさが浮かんだ。

「……三日月、光莉」

光莉の息が止まる。

「どうして、私の名前……」

冬真はポケットから、古びた小さなキーホルダーを取り出した。
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