黒蝶 ~誰よりも大切な君~
そこには、幼い字で名前が刻まれていた。

みかげ とうま

「これを、昔お前からもらった」

「……うそ」

「お前は覚えてないかもしれない」

冬真の声が、初めて少しだけ揺れた。

「でも俺は、忘れたことがない」

七歳の夏。
泣いていた光莉に、冬真が言った言葉。

――俺が、ずっと光莉を守る。

けれど、その約束をした直後、冬真は突然引っ越してしまった。

そして今、何年も経った夜に再会した。

冬真は光莉の前まで歩み寄ると、静かに手を差し出した。

「帰る場所がないなら、俺のところへ来い」

「……迷惑じゃないの?」

「迷惑なら、声をかけてない」

「でも、私……」

「もう謝るな」

冬真の指先が、光莉の冷えた手を包む。

女嫌いで、誰にも触れさせないはずの総長。
そんな彼が、光莉の手だけは離さなかった。

「今夜から、お前はひとりじゃない」

その言葉を聞いた瞬間、光莉の瞳から涙がこぼれ落ちた。

冬真は戸惑ったように眉を寄せ、それでも光莉を引き寄せる。

「泣くな。……いや、泣いていい」

冷たいはずの腕が、驚くほど優しかった。

「俺の前では、全部吐き出せ」

光莉は、冬真の胸元に顔を埋めた。

忘れていたはずの幼なじみ。
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