恋愛上手な御曹司が唯一できない恋ー完全無欠な御曹司も私の前では不器用になるー
顔さえ良ければなんでも許されると思っているの?
世の中には「冷水を浴びせる」ということわざがある。「勢い込んでいる相手の気勢を削ぐ」という意味があるらしいけど、実際のところ反対の意味もあるのかもしれない。
だって目の前の女性が振り上げたコップの水を浴びた途端、先程までの威勢はどこにいったのか、今はただ真っ青な顔をして怖気づいていたのだから。
「わっ、私は悪くないわよ……割り込んできたこの女が悪いんだからっ!!」
全身をブランド品で固めた女子大生らしき年頃の若い女性は空になったコップを手に言い訳を喚くが、ロビーラウンジのお客さんやラウンジスタッフの非難の目は全てこの女性に集中していた。
見た目に反して品も無く騒いで他のお客さんの邪魔をしていたのは、いったい誰だったのか。
再三のラウンジスタッフの注意にも従わず今さら被害者顔をするとは、よほど蝶よ花よと育てられたのだろう。
冷たい氷水を吸ったお気に入りのニットワンピースに体温を奪われつつ水が滴り落ちるセミロングの黒髪を拭うと、私は頭に血が上るままに低い声を発したのだった。
「さっきから一方的に男の人をぎゃあぎゃあ責め立てて……恥ずかしいと思わないんですか? 隣席の私たちの会話さえ掻き消されるくらいでしたよ」
「隣の席……ああ別れ話をしていた二人ね。一人残されたってことは、男に捨てられたんでしょう? いい気味ね」
周囲に聞こえるくらいの大声と共にクスリと嘲笑されるが、それについてはぐうの音もでない。
男性に捨てられたのは事実だ。もっともこの女性との違いは、その男性が親の決めたお見合い相手であることと、破談になった理由が「見た目も性格も面白みがない女」だったからだが。
「別れ話に気付いていたのなら、少しは空気を読んで感傷に浸らせてくれませんか。男女の痴話喧嘩なら余所でやってください」
「あら、私に八つ当たり? そっちこそ恥ずかしくないの? 私のパパはこのホテルの総支配人なのよ! 流山グループの御曹司にも顔が利くんだからっ! 二度とうちのホテルを使わせないことだって……」
「残念だけど、このホテルはうちの会社が買収したよ。君のお父さんも近いうちにクビになる」
その言葉と共に頭からすっぽりと黒いジャケットを掛けられる。優しい花の香りとほんのりと温まった仕立ての黒のジャケットに包まれながら顔を上げると、芸能人も顔負けの整った鼻梁と目が合ったのだった。
「あっ……」
「髪も服もすっかり濡れてしまったね。手持ちのハンカチでは足りなさそうだ。今はこれで我慢してくれるかな?」
背筋がゾクリと震えるほどの甘い美声に戸惑っている間も、男性は濡れた頭を丁寧にジャケットで拭いてくれる。
そのまま濡れそぼった私を守るように肩を抱き寄せてくれたのは、この女性に一方的に責められていた華やかな容姿の男性だった。
座っている時は分からなかったが、女性受けしそうな長身痩躯の体型とホストのように伸ばしたセミロングの黒髪は頭の後ろハーフアップにまとめられて、すらりと長い手足を生かす佇まいとオーダーメイドらしきスリーピースのスーツを着こなす姿は、人目を引く美貌と合わせていかにも自分が持つ魅力を理解した男性といった雰囲気を纏っていた。
そんな空気の中で柳眉を逆立てて今にも爆発しそうな女性だったが、侮蔑を込めた男性の冷ややかな眼差しに言葉を失ったらしい。今はただ唇をフルフルと震わせて、青ざめることしかできないようだった。
だって目の前の女性が振り上げたコップの水を浴びた途端、先程までの威勢はどこにいったのか、今はただ真っ青な顔をして怖気づいていたのだから。
「わっ、私は悪くないわよ……割り込んできたこの女が悪いんだからっ!!」
全身をブランド品で固めた女子大生らしき年頃の若い女性は空になったコップを手に言い訳を喚くが、ロビーラウンジのお客さんやラウンジスタッフの非難の目は全てこの女性に集中していた。
見た目に反して品も無く騒いで他のお客さんの邪魔をしていたのは、いったい誰だったのか。
再三のラウンジスタッフの注意にも従わず今さら被害者顔をするとは、よほど蝶よ花よと育てられたのだろう。
冷たい氷水を吸ったお気に入りのニットワンピースに体温を奪われつつ水が滴り落ちるセミロングの黒髪を拭うと、私は頭に血が上るままに低い声を発したのだった。
「さっきから一方的に男の人をぎゃあぎゃあ責め立てて……恥ずかしいと思わないんですか? 隣席の私たちの会話さえ掻き消されるくらいでしたよ」
「隣の席……ああ別れ話をしていた二人ね。一人残されたってことは、男に捨てられたんでしょう? いい気味ね」
周囲に聞こえるくらいの大声と共にクスリと嘲笑されるが、それについてはぐうの音もでない。
男性に捨てられたのは事実だ。もっともこの女性との違いは、その男性が親の決めたお見合い相手であることと、破談になった理由が「見た目も性格も面白みがない女」だったからだが。
「別れ話に気付いていたのなら、少しは空気を読んで感傷に浸らせてくれませんか。男女の痴話喧嘩なら余所でやってください」
「あら、私に八つ当たり? そっちこそ恥ずかしくないの? 私のパパはこのホテルの総支配人なのよ! 流山グループの御曹司にも顔が利くんだからっ! 二度とうちのホテルを使わせないことだって……」
「残念だけど、このホテルはうちの会社が買収したよ。君のお父さんも近いうちにクビになる」
その言葉と共に頭からすっぽりと黒いジャケットを掛けられる。優しい花の香りとほんのりと温まった仕立ての黒のジャケットに包まれながら顔を上げると、芸能人も顔負けの整った鼻梁と目が合ったのだった。
「あっ……」
「髪も服もすっかり濡れてしまったね。手持ちのハンカチでは足りなさそうだ。今はこれで我慢してくれるかな?」
背筋がゾクリと震えるほどの甘い美声に戸惑っている間も、男性は濡れた頭を丁寧にジャケットで拭いてくれる。
そのまま濡れそぼった私を守るように肩を抱き寄せてくれたのは、この女性に一方的に責められていた華やかな容姿の男性だった。
座っている時は分からなかったが、女性受けしそうな長身痩躯の体型とホストのように伸ばしたセミロングの黒髪は頭の後ろハーフアップにまとめられて、すらりと長い手足を生かす佇まいとオーダーメイドらしきスリーピースのスーツを着こなす姿は、人目を引く美貌と合わせていかにも自分が持つ魅力を理解した男性といった雰囲気を纏っていた。
そんな空気の中で柳眉を逆立てて今にも爆発しそうな女性だったが、侮蔑を込めた男性の冷ややかな眼差しに言葉を失ったらしい。今はただ唇をフルフルと震わせて、青ざめることしかできないようだった。