恋愛上手な御曹司が唯一できない恋ー完全無欠な御曹司も私の前では不器用になるー
「これでも君がうちのグループと関係の深いこのホテルの総支配人の娘と知ってからは、兄貴の顔を立てて黙っていたんだ。俺と関係があった女の子全員に手を出していたことを知っていたけど、まさか無関係な子にまで噛みつくなんてね。少し泳がせすぎたかな……すぐに助けられなくてごめんね」
最後の言葉は私に向けられたものだろうか。布越しではあったものの耳元で甘い声が囁かれて、たちまち全身に鳥肌が立つ。
赤くなった顔をジャケットで隠しながら「いえ……」とどうにか小声で返したが、この男性に聞こえたのかは分からない。
そんな私とは裏腹に水を掛けてきた女性は肩を震わせながら、「うそよ……」と絶望したように繰り返す。
「そっ、そんなはずないわ。だってパパは鷹宮グループとの買収の話なんて一度も話して……」
「水面下で進んでいたんだ。ここ最近は進展しなくて停滞気味だったけど、君の愚行を話したらあっさり譲歩してくれたよ。引継ぎだったり体制の変更だったりがあるからすぐには辞めないけど、それも済んだらホテル経営からは身を引くって」
「わっ、私が悪いっていうの!?」
「君が手を出した子の中には、国内有数の資産家の子も何人かいたからね。知らず知らずのうちに君はこの国の経済界を敵に回していたんだよ。警察に相談した子もいるらしいから、もう家同士の問題じゃないんだ。余罪も追求したら出てきそうだね」
男性が片手で合図をすると、未だ衝撃から立ち直れていない女性はホテルスタッフのネームプレートを付けた黒服の男性たちによってどこかに連れて行かれる。
そして男性はラウンジスタッフのチーフらしき年配の男性を呼ぶと、「この場に居合わせたお客さん全員にコーヒーの一杯でも奢ってあげて」とブラックカードを渡したのだった。
「さて、お次はこちらの勇敢なお嬢さんだ。こんなに身体も冷えてしまって、風邪を引く前に着替えないと……空いている部屋はあるかな」
「必要ありません。勝手にやったことですし、余計なお世話だったかもって……」
「それでもこのまま返すのは気が引けるよ。気持ちを落ち着ける場所が必要だろう? 振られたばかりなら尚更ね」
その言葉でお見合い相手に振られた羞恥を思い出して、かあっと顔が熱くなる。そして次の瞬間には両足が床から浮いて、男性の腕の中にすっぽり収まっていたのだった。
「えっ!? あのどこへ……!?」
「部屋までエスコートするよ。安心して費用は全てうちで持つから」
「そうじゃなくて。本当に私は大丈夫です! 替えの服だってその辺のお店で買いますからっ……!」
それよりも横抱きされたこのお姫様抱っこの状態をどうにかしたい。そう思うものの、この男性は離すつもりがないらしい。
ロビーラウンジを出てエレベーターホールに連れていかれると、そのままビジネス客や家族連れ客たちが待つエレベーターの列を素通りしてしまう。
やがて突き当たりにある別室に続く扉の前に辿り着くと、常駐しているホテルスタッフに何かを見せて扉を開けてもらったのだった。
その先にはロビーラウンジとは段違いの豪奢な装飾と人がまばらのエレベーターホールが現れたので、夢でも見ているのかと瞬きを繰り返す。
(こ、この場所って……)
噂に聞いたことがある。このホテルの各種スイートルームに続くエレベーターホールは他の宿泊客とは別の場所に設けられており、出入り口を含めて決して交わらないようになっていると。
すれ違う宿泊客も見るからにセレブ層といった雰囲気の人たちばかりで、安物の服装な上にびしょ濡れで抱き上げられている私は明らかに浮いていた。
最後の言葉は私に向けられたものだろうか。布越しではあったものの耳元で甘い声が囁かれて、たちまち全身に鳥肌が立つ。
赤くなった顔をジャケットで隠しながら「いえ……」とどうにか小声で返したが、この男性に聞こえたのかは分からない。
そんな私とは裏腹に水を掛けてきた女性は肩を震わせながら、「うそよ……」と絶望したように繰り返す。
「そっ、そんなはずないわ。だってパパは鷹宮グループとの買収の話なんて一度も話して……」
「水面下で進んでいたんだ。ここ最近は進展しなくて停滞気味だったけど、君の愚行を話したらあっさり譲歩してくれたよ。引継ぎだったり体制の変更だったりがあるからすぐには辞めないけど、それも済んだらホテル経営からは身を引くって」
「わっ、私が悪いっていうの!?」
「君が手を出した子の中には、国内有数の資産家の子も何人かいたからね。知らず知らずのうちに君はこの国の経済界を敵に回していたんだよ。警察に相談した子もいるらしいから、もう家同士の問題じゃないんだ。余罪も追求したら出てきそうだね」
男性が片手で合図をすると、未だ衝撃から立ち直れていない女性はホテルスタッフのネームプレートを付けた黒服の男性たちによってどこかに連れて行かれる。
そして男性はラウンジスタッフのチーフらしき年配の男性を呼ぶと、「この場に居合わせたお客さん全員にコーヒーの一杯でも奢ってあげて」とブラックカードを渡したのだった。
「さて、お次はこちらの勇敢なお嬢さんだ。こんなに身体も冷えてしまって、風邪を引く前に着替えないと……空いている部屋はあるかな」
「必要ありません。勝手にやったことですし、余計なお世話だったかもって……」
「それでもこのまま返すのは気が引けるよ。気持ちを落ち着ける場所が必要だろう? 振られたばかりなら尚更ね」
その言葉でお見合い相手に振られた羞恥を思い出して、かあっと顔が熱くなる。そして次の瞬間には両足が床から浮いて、男性の腕の中にすっぽり収まっていたのだった。
「えっ!? あのどこへ……!?」
「部屋までエスコートするよ。安心して費用は全てうちで持つから」
「そうじゃなくて。本当に私は大丈夫です! 替えの服だってその辺のお店で買いますからっ……!」
それよりも横抱きされたこのお姫様抱っこの状態をどうにかしたい。そう思うものの、この男性は離すつもりがないらしい。
ロビーラウンジを出てエレベーターホールに連れていかれると、そのままビジネス客や家族連れ客たちが待つエレベーターの列を素通りしてしまう。
やがて突き当たりにある別室に続く扉の前に辿り着くと、常駐しているホテルスタッフに何かを見せて扉を開けてもらったのだった。
その先にはロビーラウンジとは段違いの豪奢な装飾と人がまばらのエレベーターホールが現れたので、夢でも見ているのかと瞬きを繰り返す。
(こ、この場所って……)
噂に聞いたことがある。このホテルの各種スイートルームに続くエレベーターホールは他の宿泊客とは別の場所に設けられており、出入り口を含めて決して交わらないようになっていると。
すれ違う宿泊客も見るからにセレブ層といった雰囲気の人たちばかりで、安物の服装な上にびしょ濡れで抱き上げられている私は明らかに浮いていた。