恋愛上手な御曹司が唯一できない恋ー完全無欠な御曹司も私の前では不器用になるー
(はっ、恥ずかしい……)
腕の中で顔面を紅潮させている間もホテルスタッフの案内で男性は慣れた様子でエレベーターに乗ってしまい、「ここの部屋しか空いていなかったんだ」と教えてくれる。
「すぐに用意できる部屋がスイートルームしかないそうでね。デラックススイートとエグゼクティブは予約で埋まっているらしいんだ」
滅多に聞けない客室名と自分が生きている世界とは全く異なるラグジュアリーな世界に圧倒されている間に、用意したというスイートルームに着いてしまう。
何か言わなくてはと口をパクパク開閉したものの、結局言葉にならないままバスルームに直接降ろされたのだった。
「じゃあ君の着替えを手配してくるから、それまでゆっくりシャワーでも浴びていて。俺はそこで待っているから、必要なものがあったら声を掛けて」
それだけ言って男性が磨りガラス戸を閉めてしまうと、ポツンと一人だけ取り残されてしまう。
一人暮らししているおんぼろアパートの浴室とは全く異なるオシャレな円形のジェットバスと、その隣のガラス張りのシャワーブース。アメニティは全て外国の一流ブランド品か、国内の最高級メーカー名が印字されている。
(ここまでしてもらう必要なんて無いのに……)
水を被った理由だって半分は男性が困っている素振りを見せたからだが、もう半分は振られた腹いせが大きい。
本当なら私も総支配人の娘というあの女性に向かって偉そうに説教する資格はない。なんだったら、一方的に振ってきたお見合い相手に同じことをしていた可能性だって充分にあり得る。
「『真面目なだけで面白みがない』か……」
つい数時間前にお見合い相手に言われた言葉を思い出して、大きなため息を吐いてしまう。もう何度目になるか分からない振られた理由。
今回は相手に気に入られるようにインターネットやSNSで調べた、恋人を退屈させない話術や気に入られるオシャレを真似したのに。
「義父様と義兄様になんて言おう……」
行き遅れを心配する二人が用意してくれた縁談を反故にしてしまった罪悪感に押し潰されそうになるものの、それより先に今はこの状況をどうにかするべきだと気持ちを切り換える。
男性が閉めた出入り口の扉以外で外に出られそうなのは壁面の大きな明かり取りの窓だが、やはり安全のためか開閉は出来ないようになっていた。
ジェットバスの中からも眼下の街が一望できるように設計されているようで、綺麗な夜景が見られる時間帯に入ったらさぞかしロマンチックだろう。今はただこの窓が憎くて仕方ないが。
結局逃げたくても逃げられないことを悟ってしまうと、諦めて服を脱いで軽くシャワーを浴びる。
濡れた頭から湯を被ると身体が芯から温まったので、男性の言う通り冷水で冷えていたのだろう。その辺の量販店で服を買ってインターネットカフェのシャワーを使うつもりでいたが、それまで身体が持たなかったかもしれない。
そう考えると、男性のこの申し出は渡りに船だったと言える。
(お礼、さっきの男性に言わないと)
熱いシャワーから湯が流れ落ちてくるとすぐにシャワーブースは白い蒸気で満たされるが、そんな中でもガラスに映るのは中の下といった貧相な自分の顔と、真っ赤になった目元だった。
いつの間に泣いていたのだろうか。別れ話後の騒動で全く気が付かなかった。
(もしかしてさっき人は、この目元に気付いて……?)
ほとんど背を向けていたのにいつ見られていたのか。嬉しさと恥ずかしさで胸がない交ぜになって苦しくなる。羞恥とも歓喜とも言える感情に面映ゆくなってしまったのだった。
腕の中で顔面を紅潮させている間もホテルスタッフの案内で男性は慣れた様子でエレベーターに乗ってしまい、「ここの部屋しか空いていなかったんだ」と教えてくれる。
「すぐに用意できる部屋がスイートルームしかないそうでね。デラックススイートとエグゼクティブは予約で埋まっているらしいんだ」
滅多に聞けない客室名と自分が生きている世界とは全く異なるラグジュアリーな世界に圧倒されている間に、用意したというスイートルームに着いてしまう。
何か言わなくてはと口をパクパク開閉したものの、結局言葉にならないままバスルームに直接降ろされたのだった。
「じゃあ君の着替えを手配してくるから、それまでゆっくりシャワーでも浴びていて。俺はそこで待っているから、必要なものがあったら声を掛けて」
それだけ言って男性が磨りガラス戸を閉めてしまうと、ポツンと一人だけ取り残されてしまう。
一人暮らししているおんぼろアパートの浴室とは全く異なるオシャレな円形のジェットバスと、その隣のガラス張りのシャワーブース。アメニティは全て外国の一流ブランド品か、国内の最高級メーカー名が印字されている。
(ここまでしてもらう必要なんて無いのに……)
水を被った理由だって半分は男性が困っている素振りを見せたからだが、もう半分は振られた腹いせが大きい。
本当なら私も総支配人の娘というあの女性に向かって偉そうに説教する資格はない。なんだったら、一方的に振ってきたお見合い相手に同じことをしていた可能性だって充分にあり得る。
「『真面目なだけで面白みがない』か……」
つい数時間前にお見合い相手に言われた言葉を思い出して、大きなため息を吐いてしまう。もう何度目になるか分からない振られた理由。
今回は相手に気に入られるようにインターネットやSNSで調べた、恋人を退屈させない話術や気に入られるオシャレを真似したのに。
「義父様と義兄様になんて言おう……」
行き遅れを心配する二人が用意してくれた縁談を反故にしてしまった罪悪感に押し潰されそうになるものの、それより先に今はこの状況をどうにかするべきだと気持ちを切り換える。
男性が閉めた出入り口の扉以外で外に出られそうなのは壁面の大きな明かり取りの窓だが、やはり安全のためか開閉は出来ないようになっていた。
ジェットバスの中からも眼下の街が一望できるように設計されているようで、綺麗な夜景が見られる時間帯に入ったらさぞかしロマンチックだろう。今はただこの窓が憎くて仕方ないが。
結局逃げたくても逃げられないことを悟ってしまうと、諦めて服を脱いで軽くシャワーを浴びる。
濡れた頭から湯を被ると身体が芯から温まったので、男性の言う通り冷水で冷えていたのだろう。その辺の量販店で服を買ってインターネットカフェのシャワーを使うつもりでいたが、それまで身体が持たなかったかもしれない。
そう考えると、男性のこの申し出は渡りに船だったと言える。
(お礼、さっきの男性に言わないと)
熱いシャワーから湯が流れ落ちてくるとすぐにシャワーブースは白い蒸気で満たされるが、そんな中でもガラスに映るのは中の下といった貧相な自分の顔と、真っ赤になった目元だった。
いつの間に泣いていたのだろうか。別れ話後の騒動で全く気が付かなかった。
(もしかしてさっき人は、この目元に気付いて……?)
ほとんど背を向けていたのにいつ見られていたのか。嬉しさと恥ずかしさで胸がない交ぜになって苦しくなる。羞恥とも歓喜とも言える感情に面映ゆくなってしまったのだった。


