恋の花火がきえる時。
エピローグ

恋の花火がきえる時。

手術室の赤いランプが消える。

 扉が開いた。

 医師が出てくる。

 その表情を見た瞬間、理紗はすべてを悟った。

「先生……光輝は?」

 医師は、深く頭を下げた。

「……最善を尽くしました」

 それ以上の言葉は、聞こえなかった。

 世界から音が消えた。

「違う……」

 理紗は首を振る。

「光輝は戻ってくるって言いました」

「……」

「絶対に戻るって。私のところに戻るって、約束したんです」

 小指を握りしめる。

 あの日、光輝と絡めた指。

 その温度が、まだ残っている気がした。

「だから、先生……光輝を呼んでください」

 涙が頬を伝う。

「光輝に、私が待ってるって伝えてください」

 返事はない。

 理紗は手術室の扉に縋りついた。

「光輝……!」

 扉の向こうには、もう彼はいない。

 それでも何度も呼んだ。

「光輝、戻ってきて……!」

 返事は、なかった。

 静かな廊下に、理紗の泣き声だけが響いた。

 やがて、光輝のお母さんが理紗を抱きしめる。

 理紗はその胸の中で、声を上げて泣いた。

「大好きって……まだ伝えてない……」

 違う。

 伝えた。

 何度も伝えた。

 光輝も、何度も返してくれた。

 それでも、足りなかった。

 もっと言えばよかった。

 もっと手を握ればよかった。

 もっと早く、光輝の怖さに気づけばよかった。

 理紗は、握りしめた小指を見つめた。

「約束……守れなかったね」

 その言葉が、喉の奥で崩れる。

 けれど、ほんの少しだけ。

 小指に温もりが残っていた。

 光輝の声が、耳の奥で聞こえた気がした。

『理紗、泣くなよ』

 理紗は首を横に振った。

「無理だよ……」

 涙を拭っても、止まらない。

「光輝がいないのに、笑えないよ……」

 窓の外では、夏の朝が始まっていた。

 花火の夜から、まだ数日しか経っていない。

 なのに、理紗の世界は、あの日を境に変わってしまった。

 光輝がいない未来なんて、想像できない。

 それでも、光輝は最後まで願っていた。

 理紗が笑うことを。

 いつかまた、誰かを好きになることを。

 自分の分まで、幸せになることを。

 理紗は小指を胸元に押し当てた。

「光輝……」

 声が震える。

「私、忘れないから」

 誰にも届かない約束を、静かに口にする。

「来年の花火も、その次も……ずっと、光輝と見るから」

 夜空に咲いた花火は、もう戻らない。

 けれど理紗の胸の中には、永遠に残り続ける。

 光輝が最後に見つめた、あの夏の光として。



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