愛してるなんて、噓でしょう?

25話.知らない約束

美月 side


蓮さんが戻ってきたのは、しばらく経ってからだった。

「ごめんね。待たせちゃった」

「大丈夫です」

けれど、蓮さんの表情は少し硬かった。

「何かあったんですか?」

「少し仕事の話をしていただけだよ」

「そうですか」

本当は、もっと聞きたかった。


でも、今は話したくないのかもしれない。


そう思って、私はそれ以上尋ねなかった。


そのあと、蓮さんは屋敷の中を案内してくれた。


広い廊下。


整えられた庭。


静かな書斎。


どこも綺麗だったけれど、どこか冷たい印象もあった。

「ここは?」

廊下の奥にある扉を見て尋ねる。

「昔使っていた部屋だよ」

「蓮さんの?」

「うん」

「見てもいいですか?」

蓮さんは少し迷ったあと、頷いた。


扉を開けると、そこには落ち着いた色合いの家具が置かれていた。


使われていないのか、少しだけ時間が止まったような雰囲気がある。

「懐かしいな」

蓮さんは部屋の中を見渡した。

「子どもの頃、ここで過ごすことが多かったんですか?」

「そうだね」

私は棚に並んだ本を眺めた。


その中に、小さな木箱が置かれているのを見つける。

「これは?」

「ああ……」

蓮さんの声が少しだけ変わった。

「昔のものだよ」

彼は木箱を手に取り、そっと棚の奥へ戻した。


中身は見えなかった。

「大切なものですか?」

「うん。大切なもの」

その言葉を聞いて、私はそれ以上聞けなくなった。


部屋を出るとき、蓮さんは少しだけ寂しそうな顔をしていた。

「美月ちゃん」

「はい?」

「昔のことを、覚えてる?」

突然の質問だった。

「昔……ですか?」

「小さい頃のこと」

私は少し考えた。

「覚えていることもありますけど、曖昧なことも多いです」

「そっか」

「どうしてですか?」

「いや。何でもないよ」

その返事に、私は首を傾げた。

「蓮さんは、覚えているんですか?」

彼は私を見つめた。


そして、静かに頷いた。

「忘れたことはないよ」

その言葉が、なぜか胸に残った。


帰り際、玄関で蓮さんは私の手を握った。

「今日は来てくれてありがとう」

「こちらこそ。素敵なお家でした」

「また来てくれる?」

「はい」

彼は嬉しそうに笑った。


けれど、その目の奥には、私には分からない何かがあった。


まるで、ずっと昔の約束を確かめるような目だった。

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