愛してるなんて、噓でしょう?

第六章 45話.父との対面

蓮 side
父から呼び出されたのは、午後のことだった。


東條会の本邸。


重厚な扉を開けると、父――東條宗一郎が、いつものように書類へ目を通していた。

「来たか、蓮」

「話があると聞きました」

「ああ。十二年前のことだろう」

俺は父の向かいに座った。

「美月の父親について、知っていることをすべて話してください」

父の手が止まる。

「まだ、あの娘に関わるつもりか」

「関わるも何も、彼女は俺の大切な人です」

「お前は昔から、あの娘のことになると冷静さを失う」

「それでも構いません」

父は小さく息を吐いた。

「水瀬の父親は、当時の東條会にとって重要な情報を持っていた」

「どんな情報ですか」

「組織の内部で起きていた問題に関するものだ。彼は、それを明らかにしようとしていた」

「それで、あの日に何が?」

「星灯りの夜、屋敷の中で騒ぎが起きた。水瀬は娘を連れて出ていく予定だったが、その前に予定外の事態が起きた」

「父親は美月を連れて逃げたんですか」

「少なくとも、娘を守ろうとしていた」

その言葉に、胸の奥が重くなる。

「では、父親は今どこに?」

「分からない。あの日以降、消息は途絶えた」

「父さんは探したんですか」

「探した。だが、手掛かりは少なかった」

父はそこで言葉を切った。

「蓮。お前があの娘を探していたことは知っている」

「……はい」

「だが、過去を取り戻そうとするな。あの娘は、もう昔のあの娘ではない」

「分かっています」

「本当に分かっているのか」

父の視線が鋭くなる。

「お前は十二年前の約束を、今も大切にしているのだろう。だが、あの娘に同じ気持ちを求めるな」

その言葉に、俺は静かに頷いた。

「求めていません」

「なら、なぜ探し続けた」

俺は少しだけ視線を落とした。

「もう一度会いたかったからです」

ただ、それだけだった。


昔の約束を守らせるためじゃない。


彼女に昔と同じ気持ちを持ってもらうためでもない。


ただ、もう一度会いたかった。


そして今は、昔の美月ではなく、今の美月を好きになった。

「彼女が俺を選ばなくても、会えただけでよかったと思えるくらいには」

父は何も言わなかった。


しばらくして、静かに口を開く。

「ならば、今度こそ彼女自身の意思を尊重しろ」

「もちろんです」

「それができないなら、近づくべきではない」

俺は立ち上がった。

「俺は、彼女を大切にします」

父の返事を待たず、部屋を出た。


胸の中に残ったのは、ひとつの決意だった。


もう隠し続けることはできない。


美月に、俺の気持ちを話そう。

< 155 / 179 >

この作品をシェア

pagetop