私を選ぶまで
 はっきり言って、私は男に苦労をしたことがない。単純に言えばモテるということ。経験人数も多いし、落とせない男は居ない。私から行かなくても大抵の男は誘ってくるし、狙った人に彼女が居ても私が軽くつつけば必ず寝返ってくる。

 その理由は高校卒業後に手に入れた顔と身体が根本で、あとは男の嗜好や性格に合わせて使い分けている。

 それは女性に対しても同じで、上手く立ち回り、何の問題も起こさず、最終的には男に選ばせてきた。

 だけど、男を手に入れても、付き合うまでには至らず、つまらない日々を過ごしていた。

 都心部にある有名な百貨店の中で、一階のフロアに併設されたお洒落な雑貨店で働き、土日の休みの前には仲のいい同年代の『美智』に誘われ、合コンや街コンに二人で出掛けた。

 そこに行っても、同じような男ばかりで、早々に会話を切り上げると、美智が私に近づいて言った。

「もう抜け出さない?いい店見つけてあるから、一緒にいこ」

 美智の提案に気乗りはしないけど、ここに居るよりはマシだと思い、その場を二人で抜け出した。

 すぐにタクシーへ乗り込み、美智が運転手に行き先を告げ、車が大通りを走って行き、郊外へ向かい始めた。

 緩やかな坂を登ると、喫茶店のような建物が見えてきた。徐々に速度が落とされ、建物の前に車が停まった。

 そこで美智が先に下りて行き、あとに続いて出ると、美智が私のほうを見てニヤついた。

「ここ喫茶店なんだけどさぁ、ピアノもあって、夜はBARなんだって。めっちゃ雰囲気よくない?」

 そんな言葉を聞きながら、建物を見渡しても、普通の喫茶店にしか見えず、美智の趣味がよく分からないと思った。

 私は珈琲が嫌いだし、ピアノなんて金持ちの道楽で、興味もないし、聴いたこともない。BARと聞いてもお酒の味なんて、どこでも同じだと口を開きかけた。

 すると、美智が私の腕を取り、「そんな顔しないでよぉ、一杯だけ飲んで帰ろ?ね?」と言って、強引に引っ張りながら、店に向かって行った。

 美智が店のドアを開けると、カウンターのほうから、男性の低い声が聞こえてきた。

「いらっしゃい。空いてる席へどうぞ」

 中へ進みながら、カウンターに視線を向けると、一瞬で目が奪われてしまった。

 無造作な黒髪と、両耳に小ぶりのフープピアス。眉間には軽く皺が刻まれ、目元は平坦で口元には髭が蓄えられ、顎髭まで繋がっていた。どちらも綺麗に整えられているのが特徴的だった。

 男は白地に黒い線が入ったアノラックを着ていて、首元には高そうなネックウォーマーを掛けていた。

 格好から二十代後半に見えたけど、落ち着いた雰囲気もあり、今までの男にないものを感じた。
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