崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「……っ」
「えっ……きゃあっ!?」

 シリルの手がミランダの手首を掴み、ぐいっと引っ張った。視力や聴力は落ちているが腕力はすっかり回復していたらしい彼の力は強く、ミランダはバランスを崩して彼のベッドに倒れ込んでしまう。

 なるべく清潔にと心がけたが、怪我人を一日寝かせたシーツは汚れている。
 そこに倒れ込む形になったミランダの体がくるっと回転し、えっと思ったときにはミランダはシリルによってベッドに押し倒されていた。

(……えっ?)

 ついさっきまではベッドの脇に立っていたのに、いつの間にかシリルに手を拘束され、ベッドに押し倒されている。
 こちらを見下ろすシリルの目はどこか虚ろで――しかも彼は、裸だ。体勢が体勢なので、なにも隠せていない。

「で、殿下! それは、だめです!」

 治療や清拭の際には心を無にできたのだが、さすがにここでは冷静でいられない。

 ミランダは拘束から逃れようと暴れたが――ふいに、彼の裸の右肩が視界に入った。そこにはまだうっすらとした傷跡があり、シリルは病み上がりの怪我人なのだと思い出すと体がかちっと固まってしまう。

 それを、シリルは悪い意味で捉えたようだ。ぼんやりとした眼差しのまま、彼の手がミランダの服に伸ばされる。

(……こ、これって……!)

「だめです、殿下! そういうことは……んむっ」

 貞操の危機を察したミランダが真っ赤になって諭すものの、その抗議の声はシリルの口内に溶けていった。

 シリルが、ミランダに口づけていた。頬にキスとかというかわいらしいものではなく、唇同士をしっかり重ね合わせるという、恋人のキスを。

(……えっ?)

「……ン、ぁ」

 シリルが、何かつぶやく。だがそれは相変わらずはっきりとした音声にはならなかった。

 シリルは口づけたまま、ミランダのシャツの胸元を掴んで引っ張り、ボタンごと引きちぎってしまった。胸元が空気中に晒されて、ぞくっと鳥肌が立つ。

「ひゃあっ! 待って、だめ、殿下……!」

 ミランダは必死に抵抗するが……相手は王子、かわいがっていた男の子、怪我人、という言葉が彼女を留めてしまう。

 全力で暴れることもできず、ただでさえ非力なのに働き通しで疲労した女の腕力では……成人男性には、敵わなかった。
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