崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
夜の不意打ち
シリルを保護したときは早朝だったがあっという間に日が昇って沈み、夜を迎えた。
(……丸々一日の欠勤確定ね)
夜のとばりに包まれた森の小屋の中で、ミランダはため息をつく。ベッドに寝るシリルはやっと穏やかな寝息を立て始めており、すっかり疲れたミランダは椅子に座り込んでいた。
シリルが襲撃されて、半日以上経過した。ミランダの結界魔術のおかげで、この小屋は帝国軍にも王国軍にも見つかっていない。
だがシリルは峠を越えたようだし、そろそろ解除してもいい――のだが、それは王国軍が近くに来たときでなければならない。帝国軍が先に発見すれば、無防備なシリルを遠慮なく始末されてしまう。
(そういえば、王国軍では特別な方法で合図をするとシリル殿下が言っていたわね……)
シリルは『留学』中、帝国の知識を学ぶだけでなく王国での出来事や文化などもミランダに教えてくれた。その中に、「煙を使って合図をする」という王国軍での合図の仕方を教えてくれたのだった。
(でも、私では王国軍だけに通用する合図の煙を出すことはできない。帝国軍を呼び寄せたらだめだし……)
いろいろ考えていると、だんだん眠くなってきた。昨夜からずっと働き通しで、いい加減体が休眠を訴えている。
(殿下の眠りが安定したら、私もちょっと休もうかしら……)
うとうとしていたミランダはシリルに背を向けていたため……気づかなかった。
彼がゆっくりと目を開け、こちらに顔を向けていたことに。
「……ぅ、ぁ」
「えっ!? 殿下!?」
微かな声が聞こえたので振り返ると、シリルがぼんやりとした眼差しでこちらを見ていた。
慌てて椅子から降りて彼のもとに駆け寄り、震えながら差し出された手を握る。
「目を覚まされましたか?」
「……うぅ」
ミランダは優しく尋ねたが、シリルの眼差しは妙にぼんやりしている。視線もふらふらと左右に揺れているので、ミランダははっとした。
(目が、うまく見えないのね……)
それにミランダの呼びかけにもきょろきょろあちこちを見てかすれた声を上げるだけだから、目も耳も喉もうまく作用していないのだろう。
毒の後遺症かもしれないが……念のために彼の裸の胸に触れて診察したが、特に異常は見当たらない。いずれも、時間が経てば治るもののようだ。
(……だとしたら、もう大丈夫ね)
ほっと息を吐き出したミランダは、とんとんとシリルの肩を叩いた。
「大丈夫ですよ。もうすぐ、王国軍が来ます。そこでゆっくり治療を受けてください」
「……い、ぁ?」
やはりミランダの声がよく聞こえないし、見えないし、声も出ないようだ。だが、これはミランダにとって都合がいい。
(助けたのが私だと、知られないほうがいいわ)
たとえかつて姉弟のように一緒に過ごした仲だとしても、今は敵対する国の者同士だ。シリルだって「やあ、ミランダだったか。治療ありがとう、じゃあね」と帰らせてはくれないだろう。
そう思い、ミランダは慰めるようにシリルの髪を撫でて、微笑みかけた。
シリルの目線はまだ怪しげだが、ふとその緑色の目がミランダを見て――
(……丸々一日の欠勤確定ね)
夜のとばりに包まれた森の小屋の中で、ミランダはため息をつく。ベッドに寝るシリルはやっと穏やかな寝息を立て始めており、すっかり疲れたミランダは椅子に座り込んでいた。
シリルが襲撃されて、半日以上経過した。ミランダの結界魔術のおかげで、この小屋は帝国軍にも王国軍にも見つかっていない。
だがシリルは峠を越えたようだし、そろそろ解除してもいい――のだが、それは王国軍が近くに来たときでなければならない。帝国軍が先に発見すれば、無防備なシリルを遠慮なく始末されてしまう。
(そういえば、王国軍では特別な方法で合図をするとシリル殿下が言っていたわね……)
シリルは『留学』中、帝国の知識を学ぶだけでなく王国での出来事や文化などもミランダに教えてくれた。その中に、「煙を使って合図をする」という王国軍での合図の仕方を教えてくれたのだった。
(でも、私では王国軍だけに通用する合図の煙を出すことはできない。帝国軍を呼び寄せたらだめだし……)
いろいろ考えていると、だんだん眠くなってきた。昨夜からずっと働き通しで、いい加減体が休眠を訴えている。
(殿下の眠りが安定したら、私もちょっと休もうかしら……)
うとうとしていたミランダはシリルに背を向けていたため……気づかなかった。
彼がゆっくりと目を開け、こちらに顔を向けていたことに。
「……ぅ、ぁ」
「えっ!? 殿下!?」
微かな声が聞こえたので振り返ると、シリルがぼんやりとした眼差しでこちらを見ていた。
慌てて椅子から降りて彼のもとに駆け寄り、震えながら差し出された手を握る。
「目を覚まされましたか?」
「……うぅ」
ミランダは優しく尋ねたが、シリルの眼差しは妙にぼんやりしている。視線もふらふらと左右に揺れているので、ミランダははっとした。
(目が、うまく見えないのね……)
それにミランダの呼びかけにもきょろきょろあちこちを見てかすれた声を上げるだけだから、目も耳も喉もうまく作用していないのだろう。
毒の後遺症かもしれないが……念のために彼の裸の胸に触れて診察したが、特に異常は見当たらない。いずれも、時間が経てば治るもののようだ。
(……だとしたら、もう大丈夫ね)
ほっと息を吐き出したミランダは、とんとんとシリルの肩を叩いた。
「大丈夫ですよ。もうすぐ、王国軍が来ます。そこでゆっくり治療を受けてください」
「……い、ぁ?」
やはりミランダの声がよく聞こえないし、見えないし、声も出ないようだ。だが、これはミランダにとって都合がいい。
(助けたのが私だと、知られないほうがいいわ)
たとえかつて姉弟のように一緒に過ごした仲だとしても、今は敵対する国の者同士だ。シリルだって「やあ、ミランダだったか。治療ありがとう、じゃあね」と帰らせてはくれないだろう。
そう思い、ミランダは慰めるようにシリルの髪を撫でて、微笑みかけた。
シリルの目線はまだ怪しげだが、ふとその緑色の目がミランダを見て――