崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~

転がり落ちる魔術師

 ミランダは一日半無断で城を離れており、案の定その間に仕事を割り振ろうとした宰相にばれてしまっていた。

 宰相は勝手に城を離れたミランダに激怒し、皇帝に報告した。元々魔術師のことを快く思っていなかった皇帝はこの報告に怒り――ミランダに、「魔道学院の生徒を率いてアルベック城の守備をせよ」と命じた。

 ミランダは、ショックを受けた。

 自分が罰を受けるのは、承知の上だった。それに皇帝や宰相に叱られたのは無断欠勤のみで、薬品庫の薬をくすねたことや、ましてやあと一歩で仕留められるはずだったシリルの命を救ったことなどはばれていなかった。

 だが、とうとう魔道学院を巻き込んでしまった。それに、アルベック城といえば帝国の北西に位置する砦で――もし王国軍が攻めてきたならば、真っ先に狙われる場所だ。

 皇帝は、ミランダに死ねと言っているのだ。
 魔道学院の生徒という戦慣れしていない子どもたちもろとも捨て駒にして、王国軍の餌食になれと言っているようなものだ。

「あんたって最低ね。どうせどこかで男と密会していたんでしょうけど、それで学院の子どもたちも巻き込むなんて」

 皇帝との謁見を終えたミランダにそう言うのは、ヴィヴィアン。

 言っていることは至極まとも――男と密会していたというのも、事実だ――だが、にやにやしているので台無しだ。目障りなミランダがようやく城から出て行くので、ご満悦のようだ。

「でもわたくし、お父様にお願いしたのよ? わたくしはあのおばさんと仲がいいから、どうかちょっとだけでも減刑してあげてって。優しいでしょう?」
「……ヴィヴィアン様のご温情に、感謝します」

 どうせそんなこと言っていないのだろうと思いつつもミランダがぼそっと応じると、ヴィヴィアンはきゃらきゃらと笑った。

「うふふ、感謝なさい! あーあ、それにしても、早く女王なんか殺してくれないかしら。女王が死ねば、シリル様が王様になるのでしょう? わたくし、シリル様のお妃になりたいってお父様にお願いしているのよ!」
「そっ……」

 思わず声が出かけて、ミランダは慌てて呑み込んだ。

(この人、帝国軍の作戦をなにも知らないのね……)

 ミランダだって盗み聞きしてようやく知ることができた程度だが、ヴィヴィアンはまさか自分の父がシリルの暗殺を手配したとは知らないようだ。
 ……いや、あの宰相もきっと、娘では戦力にならないどころか下手な情報を与えないほうがいいと思っているのだろう。

 もしそうだとすると……このヴィヴィアンという令嬢、かなりかわいそうなのかもしれない。
 少なくとも、シリルと自分が結ばれる未来は存在しないのに。

(でも、それを教える義理はないわ)

 もしかするとこれから先の戦いは、ヴィヴィアンの予想を悪い意味で裏切るかもしれない。
 そのときに彼女がどうするのか……それは、間もなく城を離れるミランダでは知りようのないことだった。
< 19 / 81 >

この作品をシェア

pagetop