崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
予感
アルベック城は帝国から離れた場所に位置するため、皇帝や宰相たちの動きは全く届かない。
だが王国との国境に近いので戦況はすぐに入ってきたし……この頃、王国に侵略したものの返り討ちに遭って敗走する帝国軍がアルベック城に逃げ込むことも多くなった。
「やっぱり、王国軍には勝てないのでしょうね」
「……そうね」
今日も多くの負傷兵が逃げ込んできたため、アルベック城は朝から大忙しだ。
「敗者の世話などしなくていい!」と帝都から来た騎士たちが言うが、ミランダは皆を指揮して負傷兵の治療を行っていた。
負傷兵たちは、精強な王国軍を前にすっかり逃げ腰になっていた。しかも中にはレベッカたちとさほど年の変わらないだろう若い兵士もいて、「家に帰りたい……」と泣いていた。
メルデ帝国は広大な領土をもつが、それは決して戦によって勝ち得たのではない。
メルデ帝国は代々温厚な皇帝が治めることが多く、君主の勝手な亡命により困窮する小国を保護する目的で併呑したり、話し合いによって領土を譲渡されたりと、円満な形で領土を広げてきた。
そして帝国は魔術師が生まれやすいものの、騎士団の練度はほどほどだった。前皇帝も武力ではなくて心で他国と渡り合おうとしており、そんな帝国がたった二年で最強の軍事国家になれるはずもない。
細々とした国を攻めている間はよかったが、さすがに騎士の国であるリドベキア王国に攻めるのは間違いだった。
当然女王は侵略戦争を仕かけてきた帝国に怒ったし、またシリル王子も様々な戦いで帝国軍を撃退しているという。
(シリル殿下……ご無事なのね)
逃げ帰ってきた帝国軍は戦場で出会ったシリルのことを「非常に恐ろしい王子だった」と怖気を振るっているが、ミランダにとっては嬉しくもあり――そして、悲しくもある情報だった。
たとえシリルがこの城に攻めてきたとしても、ミランダはもう彼に温情をかけられない。
ミランダが守るべきなのは、この城で生きる人々だ。
それでも……叶うことなら、シリルと戦いたくない。
もしミランダの命ひとつでアルベック城の人々全員を生かしてもらえるのなら、指揮官として彼の前に首をさらすべきだ。レベッカたちは怒って止めるだろうが、最終手段はそれしかない。
(シリル殿下……いずれあなたは、ここに来てしまうの?)
彼の毒の治療をしたあの夜から、三ヶ月経った。
彼は帝国軍が恐れるほど勇猛な王子として活躍しているようだが、だからこそ帝国の所業を許さず――いつかここまで攻めてくるのだろう。
(……私は、戦う。ちゃんと戦う。でも……)
誰も傷ついてほしくない、と思うのは、贅沢な願いなのだろうか。
だが王国との国境に近いので戦況はすぐに入ってきたし……この頃、王国に侵略したものの返り討ちに遭って敗走する帝国軍がアルベック城に逃げ込むことも多くなった。
「やっぱり、王国軍には勝てないのでしょうね」
「……そうね」
今日も多くの負傷兵が逃げ込んできたため、アルベック城は朝から大忙しだ。
「敗者の世話などしなくていい!」と帝都から来た騎士たちが言うが、ミランダは皆を指揮して負傷兵の治療を行っていた。
負傷兵たちは、精強な王国軍を前にすっかり逃げ腰になっていた。しかも中にはレベッカたちとさほど年の変わらないだろう若い兵士もいて、「家に帰りたい……」と泣いていた。
メルデ帝国は広大な領土をもつが、それは決して戦によって勝ち得たのではない。
メルデ帝国は代々温厚な皇帝が治めることが多く、君主の勝手な亡命により困窮する小国を保護する目的で併呑したり、話し合いによって領土を譲渡されたりと、円満な形で領土を広げてきた。
そして帝国は魔術師が生まれやすいものの、騎士団の練度はほどほどだった。前皇帝も武力ではなくて心で他国と渡り合おうとしており、そんな帝国がたった二年で最強の軍事国家になれるはずもない。
細々とした国を攻めている間はよかったが、さすがに騎士の国であるリドベキア王国に攻めるのは間違いだった。
当然女王は侵略戦争を仕かけてきた帝国に怒ったし、またシリル王子も様々な戦いで帝国軍を撃退しているという。
(シリル殿下……ご無事なのね)
逃げ帰ってきた帝国軍は戦場で出会ったシリルのことを「非常に恐ろしい王子だった」と怖気を振るっているが、ミランダにとっては嬉しくもあり――そして、悲しくもある情報だった。
たとえシリルがこの城に攻めてきたとしても、ミランダはもう彼に温情をかけられない。
ミランダが守るべきなのは、この城で生きる人々だ。
それでも……叶うことなら、シリルと戦いたくない。
もしミランダの命ひとつでアルベック城の人々全員を生かしてもらえるのなら、指揮官として彼の前に首をさらすべきだ。レベッカたちは怒って止めるだろうが、最終手段はそれしかない。
(シリル殿下……いずれあなたは、ここに来てしまうの?)
彼の毒の治療をしたあの夜から、三ヶ月経った。
彼は帝国軍が恐れるほど勇猛な王子として活躍しているようだが、だからこそ帝国の所業を許さず――いつかここまで攻めてくるのだろう。
(……私は、戦う。ちゃんと戦う。でも……)
誰も傷ついてほしくない、と思うのは、贅沢な願いなのだろうか。