崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
 アルベック城にある変化が起きたのは、もうすぐ冬になるだろうひんやりとした朝のことだった。

「騎士たちがいない?」
「はい。それに、私たちが治療した兵士たちの一部も姿を消しています」

 朝食の準備中にそう言うのは、レベッカ。その顔色は悪く、ミランダは眉根を寄せた。

 ミランダは指揮官なので、自分用の大きな部屋を与えられている。普通はそこで三食を食べるのだが、せっかくなのだから昼食や夕食などは食堂で皆と一緒に食べ、朝食だけはレベッカが持ってきてくれたものを部屋で一緒に食べていた。

 この二ヶ月ほどで、レベッカはミランダのお付きのような存在になっていた。元々彼女は魔道学院の首席だったらしく、「私がミランダ様をお守りします!」と意気込んでいるのを、他の生徒たちも応援していたのだという。

 一生懸命で前向き、そして勉強熱心なレベッカのことをミランダも高く評価しており、今では一緒に朝食を食べながら一日の予定を確認したり、最近気になっていることを相談しあったりするようになっていたのだが……。

「……いつもならこの時間、早く飯を寄こせと叫んでいるわよね?」
「ええ、ですので最初に気づいたのが厨房のおばさまたちで。変だと思って部屋に行ったら、もぬけの殻だったんです」
「逃げたってこと?」

 ミランダはそう言ってから、はっと嫌な予感がしてきた。

 偉そうで横暴な、帝都から送られてきた騎士たち。彼らと、最近治療してアルベック城に滞在していた兵士のうち比較的元気な者たちがいなくなった。

「……レベッカ、皆はもう、気配探知魔術は使えるわね?」
「はい。みんなで協力しないと遠くまでは伸ばせませんが……」

 自分が教えた魔術が身についているのを確認し、ミランダはうなずいた。

「早番の子たちに、北西へ気配を伸ばすように言っておいて」
「帝都の方向じゃなくてですか?」
「ええ。それから、城に残っている兵士たちの人数の確認も。私の予想が外れればいいんだけど……うっ……」

 指示を出していたミランダだが、ふとテーブルに載っていたスープの匂いがふわんと鼻をくすぐり――胃の奥から強烈な吐き気がよじ登ってきた。

 真面目な顔でミランダの指示を聞いていたレベッカはぎょっとして、椅子から立ち上がった。

「ミランダ様!?」
「ご、ごめんなさい。ちょっと、気分が悪くて……」
「無理しちゃだめです! 私、皆に指示を出してきますから、ミランダ様は横になっていてください!」
「でも……」
「すぐに戻ってきますから。いいですね、動いちゃだめですよ!」

 いつもとは逆でレベッカはびしっとミランダを叱り、急いで部屋を出て行った。
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