崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
 一人になったミランダはちらっと朝食を見て……またしても胃が気持ち悪くなってきたため、レベッカには悪いと思いつつ料理に蓋を被せてからソファのほうに向かった。

(こんなときに体調を崩すなんて……)

 ソファに仰向けに寝転がったミランダは、嫌な拍動を始めた胸元に手を乗せる。

 見張りの騎士や兵士たちが、いなくなった。
 それはある意味、ミランダたちの監視がなくなったというので喜ぶべきことだが……そうも言っていられない。

 ミランダたちを見張るために滞在していた騎士たちが、なにも言わずにいなくなった。それが表すのは――

(もう王国軍が近くまで迫っているのかもしれない。だから、逃げられる人は逃げたのではないかしら……)

 最初から騎士たちには、ミランダたちと一緒にここで王国軍に立ち向かうつもりなんてなかった。
 王国軍が迫り、ミランダたちが逃げられないタイミングになったら自分たちは一足先に帝都に逃げ帰る。そのときに、比較的元気な兵士たちにも声をかけて一緒にとんずらしたのではないか。

 もしそうだとしたらまさに、恩を仇で返された気分だ。
 もちろん、一度王国軍を前に敗走した者たちにもう一度戦えなんて言うつもりはないが……それでも、城の仲間として一緒に問題解決に当たれるのではと期待していたのに。

(だとしたらこの城に残っているのは、私たち魔術師と非戦闘員である城の住人、そして戦うことの難しい負傷兵だけ……)

 レベッカに指示を出して残っている兵士の確認もさせたが、おそらく皆戦闘のできない者たちばかりだろう。騎士たちは最初から、ミランダたちが討ち死にしてでも王国軍と戦い敵の数を減らすつもりだったのだ。

(今の状況を、把握しないと。でも、体がしんどい……)

 はあ、とため息をついたところで、レベッカが帰ってきた。

「お待たせしました! 今、城の皆で協力して作業に当たっています」
「ええ、ありがとう。助かったわ」
「……ミランダ様、体調が優れないのですね?」

 レベッカが気遣わしげに顔を覗き込んできて……そのときミランダは、あるひとつの予感を抱いた。

 そうであってほしくない、それだけはやめてほしい、と思っていたもの。
 でも、時期を考えるとそうである可能性が十分にあるもの。

(レベッカなら……)

 ごくりとつばを呑み、この後の展開をイメージし……そして、ミランダはレベッカの手を握った。
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