崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「リオね。なにかわかったの?」
「レベッカか! 君に言われたとおり、北西の方向を探ってみたんだが……ああ、ここを開けていいですか!?」
「レベッカ、開けてちょうだい」

 ソファに横になっていたミランダが体を起こして言うと、レベッカがドアを開けた。
 そこに立っていたのは、真っ白な顔で息を切らせる魔道学院の男子生徒だった。

「ミランダ様、大変です! 北西の方角から、王国軍と思われる軍隊が接近してきています!」
「なっ……!」
「ミランダ様ー! 兵士たちについて、調べましたよ!」

 リオの報告が終わるや否や、別の女子生徒がドアに突撃する勢いで転がり込んできた。

「今ここに残っている兵士たちはみんな、怪我が治りきっていません。人数は二十三人ですが……」
「ありがとう。……心配していた事態になってしまったわね」

 ミランダは額に手を宛てがい、ふーっと息を吐き出した。そんなミランダを、レベッカが心配げに見てくる。

 ミランダの不安は三つとも、的中してしまった。

 北西のほうから、王国軍が迫ってきている。
 現在城にいる兵士はほぼ全員、戦闘力として期待できない。
 そして……ミランダは、身重だった。

 アルベック城の現状としては、最悪としか言いようがない。

(それでも……)

「仕度をして、すぐに下ります。魔術師たちには招集をかけ……それから、もし兵士でも戦える人がいたら一緒に集まるように言いなさい」
「はっ!」
「かしこまりました!」
「それから……レベッカ」

 二人の学生が走っていったため、ミランダはレベッカを呼んで立ち上がった。

「戦仕度を手伝ってちょうだい」
「まさか、そのお体で戦うつもりですか!?」

 レベッカは声を潜めつつも苛立ったように言い、ミランダの手を引っ張った。

「だめです! ミランダ様には、お腹に赤ちゃんがいるんです! 愛した人の子なのでしょう!?」

 そう、確かにそう言った。
 実際には愛していたわけではないけれど、ミランダにとって大切な人の子であることに間違いはない。

 それでも――

「……そうね。でも私は今この城で生きている人たちを助けたい。……きっとあの人も、私の決意を受け入れてくれるわ」

 ミランダは挑戦的に笑い、ショックを受けた様子のレベッカをぎゅっと抱きしめた。

「ありがとう、レベッカ。……あなたに一番辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい」
「っ……そんな……」
「私が死んだとしても、どうかこのことは……誰にも言わないで」

 ミランダが優しく言うと、レベッカはしゃくり上げながらミランダの胸元にすがりついてきたのだった。
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