崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~

アルベック城の戦い

 王国軍の進軍は、早かった。

 髪を高い位置で束ね、軍衣に身を包んだ――レベッカのどうしてもというお願いで、胸の下で切り替えるタイプのローブにした――ミランダは皆に指示を出し、まずは城の門を閉めさせた。

 アルベック城は本城を中心に城壁がぐるりと城下街を囲み、南側の大門で出入りができるようになっている。王国軍は北西からやってきたのちに城壁を迂回して、南の門から攻めてくるだろう。

 そのため、兵力は南の門の前に集中させる。戦闘力のない使用人たちは城に避難させたが、さすがに牛や鶏などまでは連れて入れなかった。動物たちは城下街に残すことになるので、もし南の門が突破されたら王国軍の進軍のために斬り捨てられるかもしれない。

 人間もそうだが、動物たちだって犠牲にしたくない。使用人の中には、かわいがって育ってた家畜を連れて行けないことに嘆き悲しむ者もいた。ペットも同じで、犬や猫も皆城下街に残している。

 慎ましくも温かな空気が満ちる、アルベック城。
 ここを戦場にしないためには、南の門を突破される前に王国軍を撃破しなければならないが――

(無理、ね)

 ミランダは、アルベック城の尖塔のベランダから外を眺めていた。

 ここからだと、北西から進軍してくる王国軍の姿がよく見えた。初冬の大地を踏みしめてやってくる騎兵はもはや、黒い雲のように見える。いくら魔術師でも、二十人足らずであんな数の騎兵を殲滅できるわけがない。

 この戦いは、敗北必至だ。防護魔術を使ったとしても、ジリ貧の負け戦になるしかない。
 それにたとえ魔術で騎兵の数を減らせたとしても、仲間をやられて怒りに燃える騎士たちによって城が蹂躙される。
 美しい城下街が、生き物たちが、人々が、犠牲になる。

(……ごめんね)

 ミランダはお腹にそっと触れてから、ベランダから飛び降りた。
 とん、とん、と空中を蹴って地上に降り、そこで待っていたレベッカたちにうなずきかける。

「……皆、聞いてちょうだい。報告にあったとおり、王国軍の騎兵の数はおそらく三千に上るでしょう。……私たちが戦える相手ではありません」

 今ミランダの前には、魔道学院の生徒たちと十名ほどの兵士たちがいた。
 城が戦場になると聞いた兵士のうち、少しでも戦えそうな者は立候補して剣や弓を手に取った。その中にはかつて「家に帰りたい……」と泣いていた少年兵もいて、ミランダの胸が苦しくなる。

 皆は、気合い十分のようだ。この城を守るために、少しでも王国軍の戦力を削ぐつもりでいる。

 ……だが、それではだめだ。
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