崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
我が子との出会いと、衝撃と
シリルはすぐには王国に帰らず、しばらくの間はアルベック城に留まって王国とのやりとりをしつつ、ミランダの出産を一緒に迎えてくれるそうだ。
「君は、僕にとって姉のような人だからね。そんなミランダの大事なときなんだから、僕も近くにいたいんだ」
国に帰らなくてもいいのですか、と尋ねたミランダに対して、シリルはそう言ってはにかんだ。
「それに、君の子どもをすぐに見たいというのもある。君の子がセドリックなのかレイチェルなのか、きちんと確かめないといけないからね」
「……ふふ。ありがとうございます、殿下」
シリルの言葉に、ミランダの胸がふわりと温かくなる。
先日、ミランダは意を決して――だが表面上は平静を装い、シリルに子どもの名前の相談をした。
彼はミランダが用意した一覧表を見てうんうんと唸り、そして最終的にセドリックとレイチェルの名前を薦めてくれたのだ。
シリルが、もうすぐ生まれる子のために選んでくれた名前。
父親がシリルであることを、ミランダは子どもに教えないつもりでいる。たとえ髪の色や『祝福印』がシリルに似ても、金髪に【炎】の『祝福印』の男性なんてこの世にごまんといる。
それに恋人の名前も「アラン」という、ありふれた――この城にも三人ほどいる――名前だと言っているので、不審に思われることはないだろう。
シリルはくすくすと笑うミランダを温かい眼差しで見て、お腹の膨らみも見て、そしてもう一度ミランダに視線を戻した。
「……ねえ、ミランダ。君はこれからもここで、子どもを育てるんだね?」
「はい。出産が終わり私の体調が整ったら、シリル殿下が私をアルベック城の城主として正式に任命してくださるのでしょう? だから私はここで……皆と一緒に、子を育てたいです」
先日の和平会談で、アルベック城は帝国領内でありながら王国の管轄下に置くということが決まったそうだ。シリルはここの城主にミランダを据え、帝国と王国の橋渡しをしてほしいという。
ミランダは喜んで、その命を受けた。ここは、帝都からも王都からもほどよい距離にある。
きっとこれからはふたつの国を繋ぐ大切な場所になるだろうし……そこをシリルの子と一緒に治めていけるのは、ミランダにとっても嬉しいことだった。
帝都のほうでもいろいろと順調に物事が進んでいるらしく、魔道学院も無事だった。
学院長は自分の教え子が全員無事であることを泣いて喜び、また今回従軍した最高学年の十八人は全員卒業することができた。
なお皇帝や宰相などが軒並み処刑された中、宰相令嬢であるヴィヴィアンは難を逃れた。
それは彼女を殺してもあまり意味がなさそうだったかららしいが、ヴィヴィアンはあろうことか進軍してきたシリルを見て「わたくしの王子様が来た!」と飛びついてきたので、とっさに振り払ったシリルによって柱に頭をぶつけたとか。
ヴィヴィアンは適当に放り出されたらしく、その他の貴族にも調べが入った。
今の帝都はかつて温和な皇帝が治めていた頃に戻るべく、少しずつ立ち直っている最中だという。
(きっと、これでいいのね)
帝国は生まれ変わり、王国の庇護を受けながらますます栄えていく。
ミランダは我が子と一緒に、ふたつの国が平和に統治される姿を見守ることができる。
「……私、幸せです」
ミランダがぽつりとつぶやくと、シリルは少し驚いた顔をした後にふわりと微笑んだ。
「そうだね。……君が幸せなのが一番だよ、ミランダ」
その微笑みはどこまでも優しく、愛情に満ちていた。
「君は、僕にとって姉のような人だからね。そんなミランダの大事なときなんだから、僕も近くにいたいんだ」
国に帰らなくてもいいのですか、と尋ねたミランダに対して、シリルはそう言ってはにかんだ。
「それに、君の子どもをすぐに見たいというのもある。君の子がセドリックなのかレイチェルなのか、きちんと確かめないといけないからね」
「……ふふ。ありがとうございます、殿下」
シリルの言葉に、ミランダの胸がふわりと温かくなる。
先日、ミランダは意を決して――だが表面上は平静を装い、シリルに子どもの名前の相談をした。
彼はミランダが用意した一覧表を見てうんうんと唸り、そして最終的にセドリックとレイチェルの名前を薦めてくれたのだ。
シリルが、もうすぐ生まれる子のために選んでくれた名前。
父親がシリルであることを、ミランダは子どもに教えないつもりでいる。たとえ髪の色や『祝福印』がシリルに似ても、金髪に【炎】の『祝福印』の男性なんてこの世にごまんといる。
それに恋人の名前も「アラン」という、ありふれた――この城にも三人ほどいる――名前だと言っているので、不審に思われることはないだろう。
シリルはくすくすと笑うミランダを温かい眼差しで見て、お腹の膨らみも見て、そしてもう一度ミランダに視線を戻した。
「……ねえ、ミランダ。君はこれからもここで、子どもを育てるんだね?」
「はい。出産が終わり私の体調が整ったら、シリル殿下が私をアルベック城の城主として正式に任命してくださるのでしょう? だから私はここで……皆と一緒に、子を育てたいです」
先日の和平会談で、アルベック城は帝国領内でありながら王国の管轄下に置くということが決まったそうだ。シリルはここの城主にミランダを据え、帝国と王国の橋渡しをしてほしいという。
ミランダは喜んで、その命を受けた。ここは、帝都からも王都からもほどよい距離にある。
きっとこれからはふたつの国を繋ぐ大切な場所になるだろうし……そこをシリルの子と一緒に治めていけるのは、ミランダにとっても嬉しいことだった。
帝都のほうでもいろいろと順調に物事が進んでいるらしく、魔道学院も無事だった。
学院長は自分の教え子が全員無事であることを泣いて喜び、また今回従軍した最高学年の十八人は全員卒業することができた。
なお皇帝や宰相などが軒並み処刑された中、宰相令嬢であるヴィヴィアンは難を逃れた。
それは彼女を殺してもあまり意味がなさそうだったかららしいが、ヴィヴィアンはあろうことか進軍してきたシリルを見て「わたくしの王子様が来た!」と飛びついてきたので、とっさに振り払ったシリルによって柱に頭をぶつけたとか。
ヴィヴィアンは適当に放り出されたらしく、その他の貴族にも調べが入った。
今の帝都はかつて温和な皇帝が治めていた頃に戻るべく、少しずつ立ち直っている最中だという。
(きっと、これでいいのね)
帝国は生まれ変わり、王国の庇護を受けながらますます栄えていく。
ミランダは我が子と一緒に、ふたつの国が平和に統治される姿を見守ることができる。
「……私、幸せです」
ミランダがぽつりとつぶやくと、シリルは少し驚いた顔をした後にふわりと微笑んだ。
「そうだね。……君が幸せなのが一番だよ、ミランダ」
その微笑みはどこまでも優しく、愛情に満ちていた。