崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
 春の終わり頃、ミランダはとうとう産気づいた。

 ちょうどシリルと一緒に話をしているときだったので、立ち上がったミランダが破水したのを見てシリルは硬直していた。
 そのまま固まってしまったシリルは全く役に立たなかったらしく、ミランダは駆けつけたレベッカに魔法で浮かされてベッドに運ばれた。

 午前中に破水してすぐさま出産の準備が進められたのだが――かなりの難産だった。

 ミランダが痛みのあまり掴んだためベッドガードをねじ曲げてしまったし、いきむときにうっかり魔力を放出してしまうので、そばにいたレベッカら魔道学院の女子卒業生たちに魔力を制御してしまったりで、部屋はてんやわんやだった。

 ……そうして夕方くらいになって、ミランダはやっとのことで男の子を出産した。
 ふわふわの金髪が頭頂部に生えているのを見て、ミランダの体から力が抜けていく。

(生まれた……ああ、シリル殿下にそっくりだわ……)

 疲労のあまり気絶しそうになりながらも、ミランダはなんとか最後の力を振り絞って、べしょべしょに泣いているレベッカから息子を受け取った。

(小さい、柔らかい、しわくちゃ……)

 ぎゅっと抱きしめると、途端に愛おしさが募ってくる。

 腕の中に、赤ちゃんがいる。
 ミランダの、大切な子どもが。

「……ミランダ!」

 うとうとまどろむミランダの耳に、焦ったようなシリルの声が飛び込んできた。
 ベッドの周りにカーテンを引かれているので姿は見えないが、「殿下、まだ産後すぐです!」「気になるからって、急ぎすぎです!」と産婆やレベッカたちに叱られているのが聞こえる。

(殿下……今はちょっと、会えないわ……)

 たとえ親子関係を公表できなくても、シリルにも息子を抱っこしてほしい。
 そう思うものの、今のミランダは出産の疲れでへろへろで、とんでもない見た目になっている自覚がある。

 さしものシリルもそこまでデリカシーがないわけではないようで、カーテンの前で止まった彼が恐る恐る声をかけてきた。

「ミランダ……大丈夫か?」
「……はい。来てくれて、ありがとうございます。……私の息子の、セドリックです」
「……ああ。よかった、おめでとう、ミランダ」

 揺れるカーテン越しに、シリルのシルエットが見える。彼の心からの祝福の言葉が嬉しくて、ミランダも緩んだ笑みを浮かべて息子――セドリックに頬ずりした。

「殿下……私、眠いので……休みます……」
「ああ、そうするといい。僕たちのほうで、できることはしておく。だから君は、ゆっくり休んで。……お疲れ様」
「……ありがとうございます」

 ミランダはシリルの厚意に感謝し、ふあっとあくびをした。
 眠い、とにかく眠すぎる。

 シリルが出て行ってから、レベッカがカーテンの向こうから入ってきた。彼女にセドリックを渡し、ミランダはうとうとと目を閉ざした。

「レベッカも……ありがとう」
「いいえ、この素敵なときに同席できたこと……私のほうこそ、感謝しています。ゆっくりお休みくださいね、ミランダ様」
「……ええ」

 レベッカの優しい言葉に感謝して、ミランダはゆっくりと眠りに落ちていった。
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