崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
頭を抱えるミランダに、シリルが「ごめん」と静かに言う。
「僕のことなら、うんと恨んでくれればいい。でも、僕が君の幸せを願っていること、セドリックの健やかな成長を祈り――できることならセドリックの父でありたいと思っているのは、事実だ」
「シリル殿下……」
「ミランダ、君はなにも心配する必要はない。女王陛下のことも、国民のことも、王位継承権のことも……大丈夫、僕が全部なんとかする」
シリルが真っ直ぐな眼差しで宣言するので、ミランダはうっと言葉に詰まってしまう。
……正直なところ、ミランダはシリルのことがかなり好きだ。
好きだから一年前に無理矢理抱かれても全力で抵抗できなかったし、このアルベック城で彼と再会し、ここで過ごせた穏やかな日々のことを愛おしく思っていた。
でも、それでも。
「……殿下。あなたに、好きな人はいないのですか?」
我慢できずに尋ねると、シリルの緑色の瞳が揺れた。
そうして彼は微笑み、「いるよ」と優しく答えた。
「僕が好きな人は、いる」
「それじゃあ――」
「でもそれはミランダ、君も同じだろう? 君も……共に過ごした恋人のことを、ずっと想っているんだろう?」
シリルの指摘に、ミランダは言葉を詰まらせた。そう、確かにミランダはそのように、レベッカにも語った。
帝都で出会った、金髪の素敵な人。彼と一緒にいられたのはほんのわずかな時間だったけれど、ミランダは彼を愛していた。
愛してたから、セドリックのことを産もうと思えたのだ、と。
黙ってしまったミランダに、シリルは「それにね」と言葉を続ける。
「僕の好きな人、手の届かないところにいるんだ。好きだと伝えることが、もうできないんだ」
「えっ……」
「でも僕はリドベキアの王子として、子を持たなければならない。……だから、セドリックにいてほしいんだ」
少し寂しげな瞳でシリルが語るので……ことん、とミランダの胸の奥で何かがきれいに収まった。
そういうことなのだ。シリルには好きな人がいるが、その恋は成就しない。
だが王子として跡継ぎが必要だから、自分と同じ髪と『祝福印』を持ち、なおかつ関係を持っていたとしても怪しまれにくいミランダの息子に目をつけた。
ずるいのかもしれない。
卑怯、姑息、裏切り者、と罵るべきなのかもしれない。
……でもそれは、ミランダも同じだ。
ミランダもまた、真実を伝える機会を永遠に逃し――告げたとしても信じてもらえないだろうし――シリルを偽っているのだから。
ミランダには、彼を非難することはできない。
それどころか……セドリックが皇子として皆から大切に育てられるというのは、至極正しいことだ。
たとえミランダ以外に真実を知る者がいなくても、リドベキア王家の血を継ぐセドリックが正当な扱いをしてもらえることになるのだから。
(……もう私は、私たちは、昔のような関係ではいられないのね)
これからミランダはシリルと共に国を欺くし……同時に彼のことも欺き続ける。帝城で姉弟のように幸せに過ごした日々には、戻れない。
それでも。
「……わかりました。セドリックの父親は……あなたです、シリル殿下」
ミランダは胸の痛みを覚えつつも、間違いない真実の言葉をシリルに告げたのだった。
「僕のことなら、うんと恨んでくれればいい。でも、僕が君の幸せを願っていること、セドリックの健やかな成長を祈り――できることならセドリックの父でありたいと思っているのは、事実だ」
「シリル殿下……」
「ミランダ、君はなにも心配する必要はない。女王陛下のことも、国民のことも、王位継承権のことも……大丈夫、僕が全部なんとかする」
シリルが真っ直ぐな眼差しで宣言するので、ミランダはうっと言葉に詰まってしまう。
……正直なところ、ミランダはシリルのことがかなり好きだ。
好きだから一年前に無理矢理抱かれても全力で抵抗できなかったし、このアルベック城で彼と再会し、ここで過ごせた穏やかな日々のことを愛おしく思っていた。
でも、それでも。
「……殿下。あなたに、好きな人はいないのですか?」
我慢できずに尋ねると、シリルの緑色の瞳が揺れた。
そうして彼は微笑み、「いるよ」と優しく答えた。
「僕が好きな人は、いる」
「それじゃあ――」
「でもそれはミランダ、君も同じだろう? 君も……共に過ごした恋人のことを、ずっと想っているんだろう?」
シリルの指摘に、ミランダは言葉を詰まらせた。そう、確かにミランダはそのように、レベッカにも語った。
帝都で出会った、金髪の素敵な人。彼と一緒にいられたのはほんのわずかな時間だったけれど、ミランダは彼を愛していた。
愛してたから、セドリックのことを産もうと思えたのだ、と。
黙ってしまったミランダに、シリルは「それにね」と言葉を続ける。
「僕の好きな人、手の届かないところにいるんだ。好きだと伝えることが、もうできないんだ」
「えっ……」
「でも僕はリドベキアの王子として、子を持たなければならない。……だから、セドリックにいてほしいんだ」
少し寂しげな瞳でシリルが語るので……ことん、とミランダの胸の奥で何かがきれいに収まった。
そういうことなのだ。シリルには好きな人がいるが、その恋は成就しない。
だが王子として跡継ぎが必要だから、自分と同じ髪と『祝福印』を持ち、なおかつ関係を持っていたとしても怪しまれにくいミランダの息子に目をつけた。
ずるいのかもしれない。
卑怯、姑息、裏切り者、と罵るべきなのかもしれない。
……でもそれは、ミランダも同じだ。
ミランダもまた、真実を伝える機会を永遠に逃し――告げたとしても信じてもらえないだろうし――シリルを偽っているのだから。
ミランダには、彼を非難することはできない。
それどころか……セドリックが皇子として皆から大切に育てられるというのは、至極正しいことだ。
たとえミランダ以外に真実を知る者がいなくても、リドベキア王家の血を継ぐセドリックが正当な扱いをしてもらえることになるのだから。
(……もう私は、私たちは、昔のような関係ではいられないのね)
これからミランダはシリルと共に国を欺くし……同時に彼のことも欺き続ける。帝城で姉弟のように幸せに過ごした日々には、戻れない。
それでも。
「……わかりました。セドリックの父親は……あなたです、シリル殿下」
ミランダは胸の痛みを覚えつつも、間違いない真実の言葉をシリルに告げたのだった。