崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
 乳母は自分が爆弾発言をしたとはつゆほどにも思わず、ころころと楽しそうに笑っている。

「恥ずかしいかもしれませんが、今のうちにミランダ様とセドリック様のお姿をたくさん見ていたほうがいいですよ。うちの夫も最初の子のときは恥ずかしがっていつも席を外していたのですが、ずっとそれを後悔していて……今の子のときには授乳のときにもそばにいてくれたのですよ」
「え、あ、そ、そうか。いや、だがミランダの迷惑になるだろうし……」

 乳母は嬉々として言うが、シリルはしどろもどろだ。それはそうだ。

 シリルにはあの夜の記憶がない。見るからに女性慣れしていないし、彼が授乳シーンなんて見たらひっくり返って倒れるのではないか。

 ……だが、そんなことを乳母には言えない。城の者にとってのミランダとシリルは、敵対する国の者同士でありながら想い合い愛の結晶を得た幸せな恋人たち、なのだから。

(えっ……どうしよう?)

 ミランダとしても、シリルに授乳する姿を見られるのは恥ずかしい。これは子を育てるために大切な行為で、そこに艶っぽさはかけらもないとはわかっているのだが……。

「あの、大丈夫よ。シリル殿下はお仕事でお忙しいですし……」
「だめですよ、ミランダ様! そう言って男は逃げるんです! で、逃げたくせにあとでグジグジ言うんですから!」

 まさに肝っ玉母ちゃんのような発言をする乳母は善意なのだろうが全く引く様子がなく、固まったシリルの肩を無理矢理押してミランダの隣に座らせた。

「ささ、ミランダ様、どうぞお乳を」
「うっ……わ、わかったわ」

 そうしてミランダは乳母がクローゼットでごそごそ捜し物をしている隙に、シリルに耳打ちした。

「……目をつむっていてください。この角度からなら、わからないはずです」
「……わかっ、た」
「私が服を着たら、合図をします。そうしたら目を開けていいですから」
「……その、ごめん、ミランダ」
「大丈夫ですよ。じゃ、服を緩めますので」

 ミランダが事前報告した途端、シリルはぎゅうっと目を閉ざした。あまりにもきつく目を閉じるので、彼の顔が皺まみれになっているが……まあいいだろう。

(……シリル殿下、妙なところでおかわいらしいのよね)

 セドリックに乳をやりながら、ミランダはこっそりそんなことを思ったのだった。
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