崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~

旅立ち

 セドリックが生まれて、二ヶ月。
 夏の陽光がまぶしい季節に、ミランダたちはアルベック城を発った。

 城には元々住んでいた人たちのほか、かつて敗走してきてミランダたちで治療をした兵士や魔道学院の卒業生も数名残った。
 彼らにとってのアルベック城はもはや第二の故郷のような場所らしく、「ミランダ様の代わりに、ここをお守りします!」と力強く宣言する姿に、ミランダの目尻が熱くなった。

(さようなら。みんなと一緒に過ごした城。私が、セドリックと一緒に一生を過ごすと思っていた場所……)

 馬車に乗り、遠ざかりゆくアルベック城をミランダはいつまでも見つめていた。

「……いつでも、戻れるよ」

 後ろ髪を引かれまくりのミランダにそう言うのは、シリル。
 セドリックが眠るベッドを揺らしてあやしてやっていた彼は、穏やかな表情でミランダを見つめていた。

「いつでも、アルベック城に帰れるさ。いずれあの城には城代を派遣するが、その城主はミランダのままにする予定だ」
「でも、私は王城に……」
「うん、だからミランダの代わりに城代に治めてもらうんだ。でも君とセドリックは城主とその子どもなんだから、いつ遊びに行ってもいい。……そうだな。僕との生活が嫌になったら、セドリックを抱っこして飛んでいっていいよ。あの城なら、僕も安心して君たちのことを任せられられるから」

 そう言うセドリックの表情はとても穏やかで、ミランダは微笑んだ。

「……ありがとうございます。では私、アルベック城を里帰り先にしておきますね」
「うん、それがいい。あの城は……いつだって、君たちのことを歓迎してくれる。そういう場所を、大切にしてほしいんだ」

 シリルの静かな笑みが、ミランダの寂しさをほんの少しだけ和らげてくれた。
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