崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~

嘘の上に築く幸福

 ミランダはシリルの恋人として、彼の離宮で暮らすことになった。

 離宮には既に大勢の使用人がいたが、数日後にはその中にひょこっとレベッカが混じり、また離宮警備兵の中にも顔なじみの兵士の姿がひょこっと見られるようになった。
 皆、ミランダとセドリックを守るために離宮に就職してくれたそうだ。

「ミランダ様! 私これからも、ミランダ様とセドリック様のために尽力しますね!」

 アルベック城にいた頃の黒い制服から華やかなお仕着せ姿になったレベッカは、気合いをみなぎらせていた。

「といっても私、メイドのお仕事なんて全然わかりませんが……でも、私の魔術はすごいって言ってもらえたんです!」
「よかったわ。リドベキアは魔術師が少ないし、レベッカは大きな戦力になるわ」
「えへへ、よかったです!」

 そう言うレベッカは今、セドリックの隣で腹ばいになって一緒に積み木遊びをしていた。

 シリルはもちろん、女王や王配も孫(仮)にめろめろで、セドリックの服やおもちゃなどを毎日山のように贈ってくれた。
 それらは王家お抱えの商人が持ってくる一級品らしく、積み木などは柔らかいし全て角が削られており、人形遊び用の道具などもどれも誤飲しにくい作りになっていた。

 また、王子様のご子息であるセドリックだけでなく、城の者たちはミランダにも優しかった。
「王子を誑かした年増め!」なんて言われることは絶対になく、ミランダのことも離宮の女主人として接しかいがいしく仕えてくれた。

 そして使用人や義父母(仮)だけでなく――

「ただいま! 僕の恋人と息子は、今日もとてもかわいいな」
「シリル様ったら……」

 王城での公務を終えて帰ってきたシリルは満面の笑みで、レベッカから受け取ったセドリックの頬にキスをしてからミランダのこともぎゅっと抱きしめてくれる。

 離宮で暮らすようになってから、ミランダはシリルのことを「シリル殿下」から「シリル様」と呼ぶようにした。シリル曰く「僕たちの仲が円満だというアピールにもなる」らしく、シリルのほうも恋人と息子を愛する王子様としての顔が板についてきていた。

 ……そのスキルはなかなかのもので、今ではメイドが「ミランダ様の授乳ですが、シリル殿下はどうされますか?」の問いに、「せっかくだから見守るよ」と余裕の笑顔で答えられるようにさえなっていた。

 メイドたちにばれないように目をぎゅっとつむるのは相変わらずだが、「胸元を拭いて差し上げてください」とメイドからタオルを渡されたときにはミランダの胸を見ないようにしつつ、優しく拭いてくれた。

「っはー、もう、私、やっぱりここに来て正解でした!」

 セドリックの入浴の時間になり、シリルが「僕がする」と嬉々としてバスタブのほうに連れて行った後の部屋で、レベッカが今にもとろけそうな顔で積み木を握りしめていた。

「シリル殿下の愛に包まれる、ミランダ様とセドリック様の姿をかぶりつきで見られるなんて! ああ、私は幸せ者です……」
「もう、大袈裟よ。それに私こそ、レベッカがそばにいてくれてとても助かっているの」

 離宮のメイドたちは皆敏腕で優秀だが、それでも彼女たちとは若干距離が空いている。だがアルベック城にいた頃からの仲であるレベッカとは気兼ねなくおしゃべりができたし、セドリックも自分が生まれたときから面倒を見てくれるレベッカに一番懐いているようだった。

「レベッカたちのおかげで、私は知らない国でも頑張っていけているわ。本当に、アルベック城であなたたちに出会えてよかったわ」
「うっ、う……ミランダ様ぁ……!」

 レベッカはとうとう、歓喜のあまり涙をこぼし始めた。どう見ても演技ではなくてしゃくり上げながら泣くレベッカをメイドたちは少し困ったように見ていたが、しばらくしてセドリックの入浴を終わらせたシリルが帰ってきてきょとんとしていた。
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