崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「……どうしてレベッカが泣いているんだ?」
「なんだかいろいろと感極まったようで」
「ふふ、そっか。……それじゃあレベッカ。悪いけれど僕の恋人の隣の席を、そろそろ譲ってもらってもいいかな?」
「ひゃっ! は、はい! もちろんです、殿下!」
レベッカははっと我に返って立ち上がり、湯上がりほかほかのセドリックを受け取った。
父親に入浴介助をしてもらえて満足しているらしいセドリックはすうすう寝息を立てていて、レベッカは零れそうな笑みを浮かべてお辞儀をして、メイドたちを伴って子ども部屋に向かっていった。
部屋にはミランダとシリルの二人だけになったところで、ミランダの隣に座ったシリルがとん、と肩に頭を乗せてきた。
「シリル様?」
「……なんだか、レベッカの気持ちもわかるかも」
「どのへんが?」
「んー、そうだね。……いろいろな感情でいっぱいになって、泣きたくなってくる気持ち、かな?」
シリルが神妙な顔でそんなことを言うので、ミランダは小さく噴き出してしまった。
「泣きたいのなら、肩を貸しますよ」
「ミランダは男前だなぁ。……でも、大丈夫。泣いたりしたらまたミランダに、かわいいって言われてしまうから」
「根に持つのですね」
それはいいとして。
(……シリル様が泣きたい理由は、なぜなのかしら)
それはもしかして……彼が想いを告げられなかったという好きな人のことが関係しているのかもしれない。
「……あのさ、ミランダ。ミランダの愛した男って……どんな人だった?」
ふいにシリルに尋ねられて、どきっとした。まさに今ミランダも、同じようなことを考えていたからだ。
「そ、それはつまり、セドリックの父親のことですか?」
「そう。帝都で出会った、金髪の男ってのは知っている。ミランダは……そいつの、どこが好きになったの? というかその人って、僕より年上、年下どっち?」
やけに質問が多い。だがシリルとしても、セドリックの実の父親(仮)についての情報は集めておきたいと思っているのかもしれない。
(まさか、そのありもしない男を捜そうなんてことは言われないと思うけれど……一応、釘は刺したほうがいいわね)
「私よりも年上の大人の男性でした。笑った顔がとても素敵な人でしたよ」
「……へえ」
「シリル様。私は決して、あの人をここに連れてきてほしいなんて言いませんよ」
ミランダが念を押すと、シリルは虚をつかれたように目を丸くした。
「えっと……?」
「私は、もうこれ以上のものなんて望みません。セドリックがいて、レベッカのような気の置けない仲間がいて……あなたも、いてくださる。あの人がセドリックのことを知らなくても、いいんです」
ミランダが笑顔で言うと、シリルは少し考える素振りを見せてから小さくうなずいた。
「……わかったよ。ミランダがここで暮らすことに幸福を感じているのなら、僕としても嬉しいことだし」
「それはよかったです。……ちなみに、シリル様のほうはどうなんですか?」
「えっ?」
聞かれっぱなしになるのは悔しいので、ミランダは少し身を乗り出してシリルに微笑みかけた。
「シリル様の、好きな人。あなたこそその人の、どういうところが好きだったんですか?」
「それは……言えない」
「……そうですか」
「うん。僕の……初恋の人なんだ」
シリルが言葉少なに答える。初恋……ということは間違いなく、王国出身者だろう。
子どもの頃から好きだったけれど、なんらかの事情で愛を告げる機会を永遠に失った人。
それは亡くなったからなのか、誰か別の男性のもとに嫁いだからなのか――
……ずきん、と胸が痛んだ。
(……馬鹿みたい。自分で質問しておきながら、自分で傷つくなんて)
いい年しているくせに我が儘な自分に、ほとほと呆れてしまう。
シリルの初恋の人が、うらやましい。
今もこうして、彼から一途な愛情を受ける女性がうらやましいと……思ってしまった。
「なんだかいろいろと感極まったようで」
「ふふ、そっか。……それじゃあレベッカ。悪いけれど僕の恋人の隣の席を、そろそろ譲ってもらってもいいかな?」
「ひゃっ! は、はい! もちろんです、殿下!」
レベッカははっと我に返って立ち上がり、湯上がりほかほかのセドリックを受け取った。
父親に入浴介助をしてもらえて満足しているらしいセドリックはすうすう寝息を立てていて、レベッカは零れそうな笑みを浮かべてお辞儀をして、メイドたちを伴って子ども部屋に向かっていった。
部屋にはミランダとシリルの二人だけになったところで、ミランダの隣に座ったシリルがとん、と肩に頭を乗せてきた。
「シリル様?」
「……なんだか、レベッカの気持ちもわかるかも」
「どのへんが?」
「んー、そうだね。……いろいろな感情でいっぱいになって、泣きたくなってくる気持ち、かな?」
シリルが神妙な顔でそんなことを言うので、ミランダは小さく噴き出してしまった。
「泣きたいのなら、肩を貸しますよ」
「ミランダは男前だなぁ。……でも、大丈夫。泣いたりしたらまたミランダに、かわいいって言われてしまうから」
「根に持つのですね」
それはいいとして。
(……シリル様が泣きたい理由は、なぜなのかしら)
それはもしかして……彼が想いを告げられなかったという好きな人のことが関係しているのかもしれない。
「……あのさ、ミランダ。ミランダの愛した男って……どんな人だった?」
ふいにシリルに尋ねられて、どきっとした。まさに今ミランダも、同じようなことを考えていたからだ。
「そ、それはつまり、セドリックの父親のことですか?」
「そう。帝都で出会った、金髪の男ってのは知っている。ミランダは……そいつの、どこが好きになったの? というかその人って、僕より年上、年下どっち?」
やけに質問が多い。だがシリルとしても、セドリックの実の父親(仮)についての情報は集めておきたいと思っているのかもしれない。
(まさか、そのありもしない男を捜そうなんてことは言われないと思うけれど……一応、釘は刺したほうがいいわね)
「私よりも年上の大人の男性でした。笑った顔がとても素敵な人でしたよ」
「……へえ」
「シリル様。私は決して、あの人をここに連れてきてほしいなんて言いませんよ」
ミランダが念を押すと、シリルは虚をつかれたように目を丸くした。
「えっと……?」
「私は、もうこれ以上のものなんて望みません。セドリックがいて、レベッカのような気の置けない仲間がいて……あなたも、いてくださる。あの人がセドリックのことを知らなくても、いいんです」
ミランダが笑顔で言うと、シリルは少し考える素振りを見せてから小さくうなずいた。
「……わかったよ。ミランダがここで暮らすことに幸福を感じているのなら、僕としても嬉しいことだし」
「それはよかったです。……ちなみに、シリル様のほうはどうなんですか?」
「えっ?」
聞かれっぱなしになるのは悔しいので、ミランダは少し身を乗り出してシリルに微笑みかけた。
「シリル様の、好きな人。あなたこそその人の、どういうところが好きだったんですか?」
「それは……言えない」
「……そうですか」
「うん。僕の……初恋の人なんだ」
シリルが言葉少なに答える。初恋……ということは間違いなく、王国出身者だろう。
子どもの頃から好きだったけれど、なんらかの事情で愛を告げる機会を永遠に失った人。
それは亡くなったからなのか、誰か別の男性のもとに嫁いだからなのか――
……ずきん、と胸が痛んだ。
(……馬鹿みたい。自分で質問しておきながら、自分で傷つくなんて)
いい年しているくせに我が儘な自分に、ほとほと呆れてしまう。
シリルの初恋の人が、うらやましい。
今もこうして、彼から一途な愛情を受ける女性がうらやましいと……思ってしまった。