崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「昔、僕は自分の祝福印が【炎】だと言ったと思う。でも本当は、【剣】と【炎】のふたつを持っているんだ」

 ほら、とシリルは自分の指にも針を刺し、黒い板に垂らした。魔力がないため水晶玉は全く光らないが、その次には【炎】と【剣】が重なった『祝福印』が浮かび上がった。

「【剣】を持つ王族の親からは【剣】を確定で受け継ぎ、もう片方の親からふたつ目の印を受け継ぐ。だからセドリックは僕から【剣】の印、ミランダから【氷】の印を受け継いだ。……僕と、君の子なんだ」
「よかったですね、殿下。……ミランダ様のために、ずっと言えなかったのでしょう?」

 老神官が言うので、シリルは微笑んだ。

「ああ。あなたにも、黙ってもらってすまなかった」
「いいえ。記録自体は【剣】と【氷】で残しております。それにこのことは、よその者は知らぬこと。誰もなにも、気にしますまい」
「そうだな。……世話になった。本当にありがとう」
「ありがとうございました」

 ミランダもお礼を言うと、老神官は「どうぞお幸せに」と言って、教会を後にするミランダたちを見送ってくれた。

 廊下に戻ったミランダは、セドリックを抱っこしてふう、と息をついた。

(そっか。だからシリル様は、記憶がなくてもこの子がご自分の子だとわかったのね)

 現在のリドベキア王家の血を継ぐ者で、子どもを作れる年齢の男性はシリル以外いない。シリルの遠縁は皆女性だったり老人や幼児だったはずなので、ミランダの秘密の恋人になることはないのだ。

「……いろいろと謎が解けました。ありがとうございました、シリル様」
「……うん」
「あっ、嘘のことなら大丈夫です。『祝福印』のことは確かに、おいそれとは口にできませんし。気にしないでくださいね?」

 シリルの口数が少ないので励ますつもりでそう言うと、シリルはこちらを見て微笑んだ。

「うん、ありがとう。それじゃあ、さ。落ち着いたら……王城に帰る?」
「……あ」

 そうだった、自分は今、頭を冷やすために里帰りをしているのだと思い出した。

「ミランダは、アルベック城で過ごすのが性に合っているんだと思う。だからもし君がここで暮らしたいというのなら、無理は言わない」
「そんな……」
「でも一度だけ、帰ってきてほしい。女王陛下たちもお待ちだし……もうひとつ、言わないといけないことがあるんだ」

 シリルが真剣な表情で言うので、ミランダはごくっとつばを呑んでから……うなずいた。

「わかりました。急ぎましょうか」
「ううん、急がない。君だって、ここに戻ってきて間もないし……僕ももうちょっと、ここでゆっくりしたいんだ」
「まあ」
「それに、僕の愛馬には無理を言った。あいつを休ませるためにも、ここでしばらく過ごそうと思う」

 シリルがそう言って微笑むので、ミランダも笑顔でうなずいた。

「……わかりました。……ふふ。ここにいたらシリル様も、いろんな仕事を任されちゃいますよ?」
「いいな、そういう暮らしも楽しそうだ。よし、じゃあミランダを里帰りさせた悪い王子を、皆にこき使ってもらおうか」

 シリルがそう言って茶目っ気たっぷりに笑うので、ミランダも小さく噴き出してしまった。
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