崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「では次は、セドリックだ。……ちくっとするが、我慢してくれよ」

 シリルはセドリックをミランダに抱っこさせてから、「べろべろばー!」とおどけてセドリックを笑わせ、その隙に足に針を刺した。
 さすがに痛みはあったようでセドリックは一瞬真顔になったが、シリルがまたしても「ばあー!」と変な顔をすると、笑い始めた。

 針の先に血がついているのを確認して……シリルは、ミランダを見た。

「……先に言っておく。ミランダ、僕はかつて君に、ふたつ嘘をついた」
「……い、いつのどれですか?」
「ひとつは、僕たちが出会って間もない頃に。そしてふたつめは……セドリックの『祝福印』測定をしたあとに」

 シリルはそう言ってから黒い板に向き直り、一度老神官が表面を拭いたそこにセドリックの血を擦り付けた。

 黒い板が血液を調べ、そして水晶玉がまぶしく……それこそミランダのときよりも強く輝いたため、ミランダはどきどきしてきた。

(すごい光……! この子は私以上の魔術師になるのね!)

 そう思ったのも、つかの間。

 水晶玉に、文様が浮かび上がった。
 だがそれは――あらかじめ聞いていた【炎】ではなくて、先ほどミランダのときに見たのと同じ、【氷】だった。

「えっ……」

(なんで、【氷】なの?)

 驚きは、そこでは収まらなかった。

 普通なら【氷】の『祝福印』だけが燦然と輝くはずなのに、よく見るとその模様に重なるように別の形があった。
【氷】の形のせいでわかりにくいが、これは――

「……剣?」
「そう、【剣】の『祝福印』。……僕たちリドベキア王家の血筋の者だけが持つ、特殊な『祝福印』だよ」

 左下に先が向いた剣の形に気づいたミランダがつぶやくとシリルはこちらを見て、泣き笑いのような顔になった。

「……これは、王家の者と聖職者しか知らないことなんだけど。我がリドベキア王家やメルデ皇家のように、遥か昔から続く大規模国家の君主の一族は、特殊な『祝福印』を持つんだ」

 シリルが言うに、そもそも『祝福印』とは太古の時代に神に仕えた者たちに与えられた印だったという。

 神に印を与えられた者たちは大陸の各地に散らばり、それぞれの国を興した。その中には既に滅びたものもあるが、リドベキアやメルデなどは今でも、神から直接授かった『祝福印』を一族の証しとしている。

 そして長い年月の中で他の『祝福印』も現れるようになり、やがてこの世に生まれた全ての人はなにかひとつの印をもつようになった。こちらが、ミランダの【氷】や【炎】などだ。
 その結果、王家や皇家のみふたつの『祝福印』を持つようになった。
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