ただ今の先に、何度でも恋に落ちる2人がいる。
窓の外を流れるのは、明かりの間隔だけが変わっていく暗いトンネル。

車内では、吊り革につかまる人も、スマートフォンに目を落とす人も、思い思いに朝の時間を過ごしている。

その中に、凛がいた。

ベージュのコートに、淡い色のマフラー。

ドア脇の窓に肩を預け、ガラスに映った自分を眺めている。

さっきまで胸の中を占めていたものは、いつの間にか静かになっていた。

何かを忘れたわけではない。

答えが出たわけでもない。

ただ、今はもう、そのことばかりを考えてはいなかった。

電車は、変わらない速さで走り続けていた。

窓の外では、トンネルの明かりが一つ、また一つと過ぎていく。

凛はガラスに映る自分を、ぼんやりと眺めていた。

「次は、大手町。大手町です。」

その声は、心にかかった薄い靄の向こうに、そっと光を灯す魔法の呪文のようだった。

ふと、窓ガラスに映る自分と目が合う。

凛は小さく微笑んだ。

そして、ゆっくりと窓から肩を離した。
< 6 / 6 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop