孤独なあなたに、夕食を。 〜食べられないCEOの胃袋を掴んだら本気の口説きが始まりました〜
その姿を見て、由香は呟いた。
「アランさんも……――確かに、なんか抗ってそうですね」
由香の言葉を拾ったアランは僅かに視線を止めて、それから小首を傾げた。
「抗う?」
冷たいグリーンアイは静かに光る。
先ほどまでと違って僅かながら熱が灯っていた。
これまで表面的な関心を装って由香の話を聞いていた彼だが、おそらく今はちゃんと興味を示しているのかもしれない。
「空気感がここだけ違います」
「へぇ……続けて?」
「突っぱねてるって言うんですかね……誰も受け入れるつもりがないって空気。特に顔が物語ってます。身体の状態が悪いのが見えますもん。倦怠感って言うのかな……」
端正な顔を悪役じみて見せる目元の隈に由香が視線をやるとアランは片眉を上げた。
それからふっと失笑する。
「この照明で分かるのか?」
「これだけ近ければ、肌の状態や隈ぐらい見えますよ」
薄暗い店内だが、あと一つずれたら肩が触れ合いそうな距離。
丁度二人の頭上に吊るされた灯りで、アランの生気のなさそうな顔が曝け出されていた。
「君は占い師かな」
「職業柄というか……栄養士してるので、なんとなく分かるんですよ。まともに食事してない人が。アランさん、ちゃんと食べてます?」
血色の悪さも、乾いた唇も、倦怠感も、彼があまり自分の身体を鑑みてないのではと考えてしまう。
するとアランはグラスを置いて、身体を由香の方へ向けてきた。
「食事か……確かに最近はまともにありつけてないな。仕事が忙しくてさ」
「駄目ですよ。食べないと、身体は資本なんですから……」
世間話のつもりで口を開いたが、徐にアランの手が由紀に重ねられ言葉が止まる。
「今夜は大丈夫。こんなに心配してくれる君なら、食わせてくれると信じてるからね」
「……っ、あの……」
言葉で体面を装っているが、なかなか雑な口説き文句だった。
そして今度は牙を隠していた口を惜しげもなく見せて笑う。
「うちは夜景が綺麗なんだ。こうしてるのも楽しいけど、飲んでばかりじゃ腹が溜まらないだろ。一緒に食事しないか?」
最初からそういう目的で話しかけたのか、それとも彼の気紛れか。
由香にはアランの考えなど分からないが、重ねられた手が意図をもって由香の指先を引っ掻いていることだけは分かる。
「どうしようかな……」
いつもの由香なら絶対に口にしない言葉が零れた。
バーに入った時から、今夜だけは現実から距離を置くと決めていたのだ。
「君が一晩付き合ってくれるなら、満足させられる自信はあるよ」
「本当ですか?」
「あぁ、女性に嘘はつかない主義だ」
その軽口につられて口許が綻んでしまう。
ーーまぁ、いいか。
こんなにも心許ない夜は後にも先にも、きっとないだろう。
明日からいつもの自分に戻ればいいのだ。
荒んだ心を持て余したこの夜、由香はアランの手を握っていた。
――――そして翌朝。
あのふざけた書き置きを見つけた。
「アランさんも……――確かに、なんか抗ってそうですね」
由香の言葉を拾ったアランは僅かに視線を止めて、それから小首を傾げた。
「抗う?」
冷たいグリーンアイは静かに光る。
先ほどまでと違って僅かながら熱が灯っていた。
これまで表面的な関心を装って由香の話を聞いていた彼だが、おそらく今はちゃんと興味を示しているのかもしれない。
「空気感がここだけ違います」
「へぇ……続けて?」
「突っぱねてるって言うんですかね……誰も受け入れるつもりがないって空気。特に顔が物語ってます。身体の状態が悪いのが見えますもん。倦怠感って言うのかな……」
端正な顔を悪役じみて見せる目元の隈に由香が視線をやるとアランは片眉を上げた。
それからふっと失笑する。
「この照明で分かるのか?」
「これだけ近ければ、肌の状態や隈ぐらい見えますよ」
薄暗い店内だが、あと一つずれたら肩が触れ合いそうな距離。
丁度二人の頭上に吊るされた灯りで、アランの生気のなさそうな顔が曝け出されていた。
「君は占い師かな」
「職業柄というか……栄養士してるので、なんとなく分かるんですよ。まともに食事してない人が。アランさん、ちゃんと食べてます?」
血色の悪さも、乾いた唇も、倦怠感も、彼があまり自分の身体を鑑みてないのではと考えてしまう。
するとアランはグラスを置いて、身体を由香の方へ向けてきた。
「食事か……確かに最近はまともにありつけてないな。仕事が忙しくてさ」
「駄目ですよ。食べないと、身体は資本なんですから……」
世間話のつもりで口を開いたが、徐にアランの手が由紀に重ねられ言葉が止まる。
「今夜は大丈夫。こんなに心配してくれる君なら、食わせてくれると信じてるからね」
「……っ、あの……」
言葉で体面を装っているが、なかなか雑な口説き文句だった。
そして今度は牙を隠していた口を惜しげもなく見せて笑う。
「うちは夜景が綺麗なんだ。こうしてるのも楽しいけど、飲んでばかりじゃ腹が溜まらないだろ。一緒に食事しないか?」
最初からそういう目的で話しかけたのか、それとも彼の気紛れか。
由香にはアランの考えなど分からないが、重ねられた手が意図をもって由香の指先を引っ掻いていることだけは分かる。
「どうしようかな……」
いつもの由香なら絶対に口にしない言葉が零れた。
バーに入った時から、今夜だけは現実から距離を置くと決めていたのだ。
「君が一晩付き合ってくれるなら、満足させられる自信はあるよ」
「本当ですか?」
「あぁ、女性に嘘はつかない主義だ」
その軽口につられて口許が綻んでしまう。
ーーまぁ、いいか。
こんなにも心許ない夜は後にも先にも、きっとないだろう。
明日からいつもの自分に戻ればいいのだ。
荒んだ心を持て余したこの夜、由香はアランの手を握っていた。
――――そして翌朝。
あのふざけた書き置きを見つけた。