極東4th
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 伊瀬が、その青い空間から消えてしまったために、早紀は一人で取り残されることとなった。

 人間のような様式で、暮らす魔族とは違う。

 毎夜入る夢の世界にも似た、シンプルで何もない世界。

 早紀は、壁にあたる部分に触れる。

 微かな弾力と共に、彼女の指は押し戻された。

 伊瀬は、自然にすり抜けて行ったが、普通に触れただけでは出られないのだろう。

 ふぅ。

 早紀は、床に座り込んだ。

 これから、どうしたらいいのだろう。

 次の蝕が来た時、自分の中の鎧は、間違いなく戦いたがる。

 しかし、鎧の主とは遠く離れてしまっているのだ。

 それで、鎧が許してくれるとは思いがたい。

 更に。

 早紀は、自分が鎧の憑き魔女である事を、伊瀬に伝えていなかった。

 ついさっきまで、その事実を忘れていたのだ。

 額の印の意味を知っているなら、既に気づかれていることだろうが。

 とぷんっ。

 壁がたわんだ。

 反射的に振り返ると――伊瀬が、戻ってきたところで。

 青ざめた、顔。

 彼の肌は、しっかりと日にやけていて、普通ならば顔色は分からないはずだ。

 しかし、青銅になってしまったかのような肌が、早紀の足を縫い止めた。

「すまない…」

 一歩。

 この空間の外は、真水か海水か。

 しかし、雫ひとつしたたらせることなく、乾いたままの伊瀬は、一歩を踏み出した。

 早紀の方へ。

 ずしんと、床が揺れた気がする。

 あ。

 さあっと、血の気が引いていく。

「すまない…おそらく、『きみ』には罪はないのだ」

 言っている意味は、分からない。

 しかし、彼が何をしようとしているのかは、感じていた。

 また、殺されるんだろうな。

 早紀は、ため息をついた。

 二度死んだ経験は――伊達ではなかった。

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